なぜ電気自動車のコストダウンは「そう簡単ではない」のか
ミニキャブMiEVが普通のガソリンエンジン仕様より150万円高い理由は、ざっくり見てリチウムイオン電池100万円、パワコンや補機類が50万円というところ。電池で50万円削りパワコンと補機類で30万円削って、あとは補助金を20万円出して計100万円のディスカウント。当面はこのあたりが目標だ。
この控えめなコストダウンですら、自動車メーカーの技術者や電池の専門家の意見を取材すると「そう簡単ではない」というのが本音のようだ。
2020年10月、テスラCEOのイーロン・マスクが「電池を内製化してコストを半分にする」とブチあげたが、その道のエキスパートの見方は「サプライヤー向けの牽制では?」と冷静だ。
ホンダからサムスンSDIを経て名古屋大学客員教授を務める佐藤登氏は、リチウムイオン電池開発の最前線で活躍する専門家だが、日経新聞のインタビューに答えて「電池は、半導体の処理能力が1年半ごとに倍増するムーアの法則のような性能向上が当てはまる世界ではない。ソニーが約30年前に実用化してからエネルギー密度は3倍、コストは10分の1になったが、性能向上は限界に近づいている」という。
インターネットが普及して以来、半導体や情報技術に関してはコストダウンがめちゃめちゃ進んだが、電池をそれと同様に考えるのは大きな勘違い。
あるエンジニアリング会社の試算によると、リチウムイオン電池のコストは原材料費の占める割合が66%と高く、リチウムやコバルトなどの素材価格が安くならない限りコストダウンの余地は少ないのが実情だ。
コストが下がらなくとも、そのぶん電池の性能が2倍になればコスパ2倍では? という考え方もあるが、それができれば苦労は要らない。
現行リチウムイオン電池の重量エネルギー密度は最大約270Wh/kg、体積エネルギー密度は同約700Wh/Lほどで、前述のとおり「性能向上は限界に近い」といわれている。
トヨタなどが開発中の全固体電池に大きな期待をよせる人も多いが、基本原理がリチウムイオンのやりとりである限り、電解質が個体になっただけで半導体のようなケタ違いの性能アップが達成できるわけではない。
リチウムイオン電池のコストは、現状ではkW/hあたり2万円を切ったあたりで頭打ちとなっているが、これがいきなり十分の一とかになるシナリオはとても想定できないのだ。
まずはトヨタの超小型EVが「開発目標」に
だから、いま手に入る技術でいちばん安価なEVを企画すると、昨年末にトヨタが発表した2人乗り超小型EVのC+pod(シーポッド)になるんだと思う。
全長2490mm×全幅1290mm×全高1550mmのボディに、9kWhのリチウムイオン電池を積んで航続距離150km。超小型モビリティ用の安全基準に対応するため、最高出力9.2kWで最高速度は60km/h。これでも、法人向け販売価格は165万〜171.6万円とけっこうな価格になる。
こういう具体的なお手本があると、開発目標がはっきりしてくる。つまり、いま軽自動車を造っているメーカーに与えられた課題は、あと10〜15年でC+podを軽自動車フル規格まで拡大させること。しかも、価格はいまのままで。
日本の自動車メーカーは、軽々しく「すべてのクルマを電動化します」なんて大それたことを言わないけれど、こういう風にはっきりしたテーマがあると強い。
電動化時代になったら、バッテリーやパワートレーンは全メーカー共通でもいい。なんなら、軽EVは5メーカー共通の姉妹車だってOKかもしれない。
前代未聞の電動化規制なんだから、そんな前例のないコストダウン作戦もアリ。意外や意外、瓢箪から駒で小型EVの革命が日本からはじまったりするかもしれませんよ。
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