量産してもEVは安くならない? 現在と同等の約150万円級で軽自動車の電気自動車は作れるのか。
2020年12月初旬に流れた「経済産業省は2030年代半ばに国内新車販売をすべて電動車とする方向で調整している」という報道。「えっ、電気自動車(EV)以外は販売禁止になるの?」とビックリした人が少なくない。
もちろん、読者の皆様ならわかってると思うけれど、実際にはハイブリッドやPHEVは電動車に含まれ、純粋に内燃機関のみで走るクルマは終わりにしましょうというハナシ。大手マスコミがいい加減な見出しで煽るもんだから、多くの人に誤解を撒き散らしてしまったわけだ。
でも、「純粋に内燃機関のみで走るクルマは販売終了」だって、実はけっこうハードルが高い。
高価格帯のクルマはまだいいとして、最も難しいのは軽自動車をどうするかという問題だ。
文/鈴木直也、写真/スズキ、三菱、トヨタ
【画像ギャラリー】2020年末に発売開始したトヨタ超小型EV C+pod 写真21点をみる
現在の軽EVはガソリン仕様より約150万円高い!
現状では軽自動車の約7割が純ガソリン車で、残る3割の電動車はマイルドハイブリッド。それも、スズキの「エネチャージ」に代表される簡易型の12Vマイルドハイブリッドが主流だ。
これが、「48Vマイルドハイブリッドや、より本格的なストロングハイブリッドでないとダメ!」ということになれば、価格上昇は不可避。軽は地方では一人一台近く普及している生活の足だけに、「庶民の足を奪うな」という反発は避けられない。
ましてや「軽といえども純EVでなくちゃアカン!」となったら、メーカー側もお手上げだろう。現実に、いま軽のEVがいくらくらいで買えるか?
i-MiEVが普通車登録となった現在、軽自動車規格の純EVはミニキャブMiEVしかないが、バッテリー容量16.0kWh、JC08モード航続距離150kmで価格は約245万円。普通のガソリンエンジン仕様よりざっくり150万円ほど高い。
近所のお使いの足として使うぶんには性能的にほとんど問題ないとしても、広く普及させるにはあと100万円くらいは価格を下げたい。そのくらいでないと、軽自動車をEV化するのは無理と言わざるを得ない。
なぜ電気自動車のコストダウンは「そう簡単ではない」のか
ミニキャブMiEVが普通のガソリンエンジン仕様より150万円高い理由は、ざっくり見てリチウムイオン電池100万円、パワコンや補機類が50万円というところ。電池で50万円削りパワコンと補機類で30万円削って、あとは補助金を20万円出して計100万円のディスカウント。当面はこのあたりが目標だ。
この控えめなコストダウンですら、自動車メーカーの技術者や電池の専門家の意見を取材すると「そう簡単ではない」というのが本音のようだ。
2020年10月、テスラCEOのイーロン・マスクが「電池を内製化してコストを半分にする」とブチあげたが、その道のエキスパートの見方は「サプライヤー向けの牽制では?」と冷静だ。
ホンダからサムスンSDIを経て名古屋大学客員教授を務める佐藤登氏は、リチウムイオン電池開発の最前線で活躍する専門家だが、日経新聞のインタビューに答えて「電池は、半導体の処理能力が1年半ごとに倍増するムーアの法則のような性能向上が当てはまる世界ではない。ソニーが約30年前に実用化してからエネルギー密度は3倍、コストは10分の1になったが、性能向上は限界に近づいている」という。
インターネットが普及して以来、半導体や情報技術に関してはコストダウンがめちゃめちゃ進んだが、電池をそれと同様に考えるのは大きな勘違い。
あるエンジニアリング会社の試算によると、リチウムイオン電池のコストは原材料費の占める割合が66%と高く、リチウムやコバルトなどの素材価格が安くならない限りコストダウンの余地は少ないのが実情だ。
コストが下がらなくとも、そのぶん電池の性能が2倍になればコスパ2倍では? という考え方もあるが、それができれば苦労は要らない。
現行リチウムイオン電池の重量エネルギー密度は最大約270Wh/kg、体積エネルギー密度は同約700Wh/Lほどで、前述のとおり「性能向上は限界に近い」といわれている。
トヨタなどが開発中の全固体電池に大きな期待をよせる人も多いが、基本原理がリチウムイオンのやりとりである限り、電解質が個体になっただけで半導体のようなケタ違いの性能アップが達成できるわけではない。
リチウムイオン電池のコストは、現状ではkW/hあたり2万円を切ったあたりで頭打ちとなっているが、これがいきなり十分の一とかになるシナリオはとても想定できないのだ。