二輪レースで日本人ライダーが世界一になれたというのは衝撃的でした
──2005年に行き来するようになる前、佐藤さんは原田さんのことを知っていましたか?
佐藤 もちろん知ってましたよ! 世界チャンピオンですから。ただ、哲也さんが現役で乗ってる時にはライブでは見てないです。でも日本人が世界チャンピオン獲得っていうニュースが飛び込んできた時は「すごい!」と思ったことを覚えてます。
二輪の世界では、岡田(忠之)さんも含めて、最高峰クラスでもたくさんの日本人ライダーが活躍してたし、しかも哲也さんが250ccクラスでチャンピオンになられた。当時の僕は自転車競技をやってたんだけど、「なぜ四輪のレーシングドライバーは世界チャンピオンになれないんだろう」って、素朴に疑問に思ってました。だからこそ、二輪レースで日本人ライダーが世界一になれたっていうのは衝撃的でしたね。
でも、初めて会った哲也さんは世界チャンピオンに見えなかった(笑)。
原田 ホントは優しいのよ、僕は(笑)。みんな勘違いしてるだけで。
佐藤 いろいろ教えてくれましたよね。モナコに住むようになったばかりの頃に、哲也さんがすぐに「パスタ食べに行こうよ」って声掛けてくれて……。イタリアのヴァンチミリアに生ハムを買いに行ったりとか、行きつけのレストランに食事に行ったりとか……。向こうでは「テツーヤ!」ってみんな哲也さんのことを知ってて、すごいんですよ(笑)。
原田 ワイナリー行ったの、覚えてる? ワイン、樽で買ってたよね(笑)。
佐藤 ね(笑)。ワインのことはほとんどわからなかったけど、教え込まれて(笑)。哲也さんは現役を退かれてたから、食べたい放題の飲みたい放題。僕はまだ現役なのに、すごく連れ回されて(笑)。
原田 食べたい放題は確かにそうだけど、飲みたい放題は人のこと言えなかったと思うよ(笑)。
佐藤 美由希ちゃん(※原田さんの奥さん)が飲むからねえ。そんなこんなで、付き合いは何年になるんだろう?
原田 何年だろうね? 一緒に飲んで……。
佐藤 風呂入って(笑)。
原田 必ず風呂に入るんだよ! で、泊まって行く(笑)。ベロベロに飲んでるから帰らせるわけにも行かないしさ。
佐藤 いや〜、楽しかったですよね。もちろん今も楽しいんだけど、あの頃はモナコ周辺を一緒に旅したり、F1レースを観にきてくださったりして、ホントに楽しかったですね。
琢磨は日本人で唯一勝てるドライバーだと思ってました
──当時の佐藤さんはF1ドライバーだったわけですが、原田さんはどんな印象をお持ちでしたか?
原田 日本人で唯一勝てるドライバーだと思ってましたよ。予選のタイムアタックなんか見ていて、「速いドライバーだなぁ」と思ってた。
僕もそうだったけど、幼い頃からずーっとレースしてポジションを確立していくのが普通なのに、琢磨は大学に入ってからレースを始めたと聞いて、「全然キャリアないじゃん! それなのにすごいなぁ」と思ってましたよ。
琢磨がSRS(※鈴鹿サーキットレーシングスクール。佐藤さんはSRS-Fに入学しフォーミュラマシンのドライビングを学び、首席で卒業)で走ってた頃のエピソードを聞かせてくれたんだけど、共有するマシンの中に1台だけ遅いのがある、と。琢磨はなぜそのマシンが遅いのか、データを分析して突き止めたんだよね。「ラジエターのフィンがつぶれてオーバーヒートして遅くなってるようだ」と。それで爪楊枝でフィンを直したんでしょう?
佐藤 そう、5時間ぐらいかけて。
原田 誰もそのマシンでは勝てなかったのに、琢磨は自分で直して勝った。その話を聞いて、「頭がすごくいい人だな」と。
普段話をしててもそれは感じるね。琢磨はアップルストアの店員になれるんじゃないかっていうぐらいMacにも詳しいしね(笑)。
佐藤 仲間内ではIT係だったから(笑)。
原田 子供たちが生まれてからはカメラも凝ってたよね。写真もすっごく上手い。
佐藤 写真撮り係、風呂入れ係、IT係(笑)。
原田 それにしてもインディ500で2勝目はすごいよ。
佐藤 僕は今もハンドルを握ると幸せになっちゃうんです。もともとずっと車が好きで好きで、でもなかなかレースができなくて、うらやましさやコンプレックスを持ってた。だから今でもコクピットに座れるだけで幸せ(笑)。
レースとなると、トップ走ってる時以外は辛いだけですよ、ホントに。「これが趣味だったらどれだけ楽しいだろう」と思いますもん。「辛い思いをしなくて済むんだよな」って。
でもやっぱり好きだからレースしちゃうし、それで勝った時は、もう……。
原田 勝った時は最高だよね!
佐藤 あの感じって、言葉にできないですよね。
原田 できないね(笑)。
佐藤 一緒に戦ってきたチームクルーが汗と涙でもうぐちゃぐちゃになってて、「ああ、この汗の一粒が結晶になったんだな」って。
原田 分かる! あの姿を見るのがすごくうれしいよね。一緒に苦労してきたわけだからね。
佐藤 言葉では言い表せないです。とてつもないものが大量に頭から分泌されてるみたいな感じで、体がすごくエキサイティングな状態になるんですよね。
原田 それを琢磨は2回も味わってるんだから(笑)。
佐藤 そうなんですよ! もう中毒ですよ。
原田 そりゃもう、やめられないな(笑)。
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