【前編】佐藤琢磨×原田哲也対談 「オレと琢磨が同じレースで走ってたら、絶対ケンカになるね(笑)」

「レース勝ったよ」と報告できれば、「ああ、よかった!」と思ってもらえるかな

佐藤 こういう話をしてると早くレースしたくて仕方なくなる(笑)。
 冷静になって考えると、2勝目ってすごいことではあるんですけど、僕をグリッドに並べるためにどれだけの人がサポートしてくれたのかってことをすごく考えるんです。
原田 それも分かる。レースできることにすごく感謝するよね。
佐藤 はい! 20代の頃はそれが分かっていなかった。もちろんありがたさは感じてたんだけど、その環境が当たり前だと思ってしまうところもあったんです。
原田 どんどん年齢を重ねていろんな経験をして、いろんなことを見ると、人に感謝するようになるんだよね。
佐藤 本当にそうです。最近はレース開催してくれただけで「本当にありがとうございます」っていう気持ちになるし、特に2020年はコロナ禍でレースも無観客で、スポンサーを含めていろいろ大変だったと思います。それでも多くのサポートがあってレースが開催されるって、本当にありがたいこと。
 世界がこんな風になっている中、「自分たちはレースなんかしてていいのかな」と思ってしまうこともありますよ。でも自分たちはレースしかできないし、レースを観て気持ちを奮い立たせてもらうことができればいいな、と。
 医療従事者の方たちの犠牲と貢献とエネルギーたるや僕らには想像ができないぐらいなんですけど、そんな中でも「レース勝ったよ」と報告できれば、少しでも「ああ、よかった!」と思ってもらえるかな、と。
原田 だって、ビックリしたもん。オレはあの時、日本にいたんだ。で、モナコにいる美由希さんと話してたら、「琢磨先生、牛乳飲んだよ」って言われて。「いや、そりゃ牛乳ぐらい飲むだろう」って(笑)。寝起きでボーッとしてたからさ。「何の話?」「インディ500で勝ったのよ」「あーっ、勝ったんだ!」って。
佐藤 8月のある日に突然美由希ちゃんから「牛乳飲んだよ」と言われても、分かんないですよね、確かに(笑)。

2017年のインディ500で走行する佐藤琢磨選手
2017年のインディ500で走行する佐藤琢磨選手

もう1回挑戦するのが楽しみで仕方ない

佐藤 レースではたくさん失敗して、ひとつずつ学んで、ひとつずつ自分のものにしてきました。そのうち、どういう状況で自分がパフォーマンスを発揮できるのか分かるようになる。自分自身のメンタルやフィジカルもそうだけど、まわりの環境が掴めるようになるんですよ。マシンやメカニック、エンジニア、それにチームの空気……。それらを勝てる方向に持って行く。それも毎年毎年、ひとつずつ勉強です。
 インディ500は2勝目だから、すでに勝ち方も知ってたし、勝つために何が必要かも知っていた。だからって、勝てるものでもないんです。そういう意味では今回もたくさん学んだことがあります。
 それをちゃんと自分のものにして、もう1回挑戦するのが楽しみで仕方ない。
原田 どんだけ好きなんだろうね(笑)。
佐藤 (笑)。哲也さんがチャンピオンになるまでって、シーズンを戦い切るわけだから、それなりに長かったと思うんですよ。でもインディ500はたった1回勝つだけでチャンピオンになれる。だから手っ取り早い(笑)。
原田 手っ取り早いけどさ!(笑)逆に言えば、1回ミスッたらその年は終わりじゃない。でもシーズン戦だと、1回ぐらいミスっても取り返せる可能性があるからね。
佐藤 確かにそうなんですよね。僕のインディカー初勝利は2013年のロングビーチですごく特別なんだけど、みんなにしてみたら……。
原田 「シーズン中の1勝」だよね。
佐藤 そうなんです。1週間ぐらいは「ウイナー」って呼ばれるけど、すぐまた次のレースで別のウイナーが登場しますよね。
 でもインディ500はずっと語り継がれます。「インディ500で勝つと、一生『インディ500のチャンピオン』と言われるよ」って聞いてたんですが、その通りだった。
 今回2度目の優勝をして、アメリカでは「Two time Indy500 Champion」って呼ばれるんですけど、そこがすごく強調される。「これっておまえが思ってるよりすごいことだぞ」って周りに言ってもらえるんだけど、まだ自分ではよく分かってない(笑)。
原田 僕なんか1回しかチャンピオン獲ってないから、「1 time」って言われるもんね。2回はすごいよ。いや、1回もすごいけどね(笑)。
佐藤 レースってすべてが整わないと勝てませんよね。でも時として、例えば二輪ならライダーの技量が本当に大きく物を言うから、特別なライディングができた時は、勝てちゃうことがあるかもしれない。
 だけどインディ500は、本当にすべてが完璧にうまく行かないと勝てないんです。だから運も必要だし、戦略も、マシンも、自分自身も、全部が完璧じゃないといけない。
 だからこそ、偉大なドライバーたちでさえインディ500では勝てていない。それなのに2回も勝たせていただいたっていうのは、ホントに特別なことだなと思います。

2017年のインディ500で優勝した佐藤琢磨選手
2017年のインディ500で優勝した佐藤琢磨選手

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