オレと琢磨が同じレースで走ってたら、絶対ケンカになるね
── 原田哲也超え、ですか?
佐藤 全然超えてないですよ(笑)。
原田 全然超えてるよ(笑)。
佐藤 超えてないですって。だって、怖くてハングオンとかできないもん(笑)。それにやっぱり世界チャンピオンっていうのは重いというか、すごいですよ。
原田 そう? もっと言って(笑)。
佐藤 同じモータースポーツの世界に生きていて、タイヤがふたつかよっつかだけの違いなんですよ、基本的には。あの世界でチャンピオンになるには、強さが必要なんですよね。そこは僕が1番足りないところ。たぶん、哲也さんとは真逆のスタイルなんですよね。
原田 その話、モナコで朝までしたことあるよね!
佐藤 した、した(笑)。「レースとは」みたいなね。
原田 「オレと琢磨が同じレースで走ってたら、絶対ケンカになるね」って。
佐藤 哲也さん、いつも「琢磨とは走りたくない」って言うじゃない(笑)。引退して時間ができてから、僕のF3時代のDVDをよく観てたらしくて。たぶん僕よりも観てるんじゃないかな(笑)。で、「頭のネジが飛んでる」って言われる(笑)。
原田 「そこで頭突っ込まないだろう!」っていうレースを観て、「こりゃあ絶対一緒に走れないな」って(笑)。
佐藤 いやいや、僕にしてみたら二輪に乗ってるって時点で普通じゃないって感覚なんですよ。そんな人に言われたくないな(笑)。……と思いつつも、哲也さんと知り合ってから過去のレースを観るようになって、改めて「すごいな」と。
哲也さんはどんな状態でもちゃんと走って、チャンスをしっかり窺って、ここぞという時には獲りに行く。そして、そういう時以外は絶対に無理しない走り。これは見習わなきゃいけないなって。
原田 琢磨とは真逆だもんね。
佐藤 そう。僕はとにかく行っちゃうから……。
原田 逆にオレは琢磨みたいにもっとアタックしていれば、あと2回ぐらいはチャンピオン獲れたかもしれない(笑)。守りすぎたってところはあるのかもしれないね。
佐藤 その辺が難しいっていうか、面白いですよね。
原田 飲みながら朝まで話したもんね。結局どっちが正解かっていうのはないんだよ。「お互いのスタイルだからそれでいいか」って話になったんだよね。
佐藤 そう、僕も哲也さんを見習うんだけど、直らない(笑)。
原田 オレも琢磨を認めてるけど、やっぱりああいう走りは絶対しないと思う(笑)。でもそれでいいんだよね、レーサーは。
今回のインディ500は「原田哲也走り」ですもん(笑)。最後の最後まで全力で走らないっていうね
佐藤 今でも覚えてるんだけど、僕が2010年にアメリカに行って、初めてオーバルのレースに出る時、哲也さんがテレビで観て応援してくださってたんですよね。で、僕の性格を知ってるものだから「絶対アタックしちゃダメだ」って連絡くれて。「とにかくイン側を走れ。内内作戦だ、絶対アウト側に行くな」って。
そういう風に応援してくださったのはうれしかったですよ。僕は哲也さんのライディングスタイルやレースへのアプローチの仕方を知ってアメリカに行きましたからね。あそこから僕のF1の時のスタイルが少しずつ変わったのかもしれない。意識していないところで……。
スタイルが変わるのって時間がかかるんですよね。アメリカでも相変わらずどっか飛んで行っちゃうようなことは多い。でも、年齢的なものもあるかもしれないし、経験値もあるかもしれないし、いろんなレースを観て吸収したこともあるのかもしれないけど、最近は飛んで行かないですよ(笑)。
原田 レース展開ってことで言えば、僕は競り合いになると最終ラップまで100%では走らなかったから。100%で走るのは最終ラップだけ。それまでは余力を残して走ってたよ。
佐藤 今回のインディ500は「原田哲也走り」ですもん(笑)。最後の最後まで全力で走らないっていうね。
原田 なんか人聞き悪いな(笑)。
──自信がないとできない走りですよね。
佐藤 もちろんリスクもありますしね。今は終わった後だから簡単に言えるけど、やってる時はもうホントに一生懸命ですよ。でも、同じ一生懸命でも、リスクを冒してまで引き上げる走りと、リスクを抑えて状況を自分で理解してコントロールしながらの走りとでは、やっぱり違うんですよ。
絶対値としては同じなんだけど、そこにどうやってアプローチするか……。リスクを取ってしまうと余裕がないから、何か予期せぬ出来事が起きた時に対処できないし、他のドライバーの動きにも対処できなくなる。でも我慢することのメリットが分かってくると、最後まで全力を出し切らない走りができるようになるんですよ。
余力がすごくあったわけじゃないんです。でも「できる」って感じるんですよね……。
原田 そこに至るまでの準備がちゃんとできてたんだよ、きっと。準備ができてないと、怖くてそういう走りはできないから。
原田哲也■1970年生まれ。1980年にポケバイレースでキャリアをスタート。ミニバイクレースを経て1986年にロードレースに転向し、1992年に全日本ロードレースGP250ccクラスでチャンピオンに。さらに翌1993年にはWGP250ccクラスで日本初のタイトルを獲得した。WGP通算17勝、表彰台55回という日本人最多記録を残して2002年に引退。現在は趣味としてバイクを楽しむ。
佐藤琢磨■10歳で初めてサーキットに行き、モータースポーツの魅力に取り憑かれるも19歳まで自転車競技に没頭。以降四輪レースに飛び込むや頭角を現し、イギリスF3を経て2002年~2009年はF1ドライバーとして活躍。2010年からインディカーにスイッチし、通算6勝。2017年には世界三大レースのインディ500で優勝し、2020年、2勝目の快挙を遂げた。
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