新型アクアで初搭載 「バイポーラ型」のメリットは?
「バイポーラ型」とは2つの電極を合体させた電池のこと。通常の電池は正極と負極、それぞれに電極板があり電子を出し入れしているが、バイポーラ型は1枚の電極板の両面に電極活物質を備えている。
クルマの12Vバッテリーは、2Vのセルを6つ連結しているが、隣のセルとは電極同士を繋げているものの、電子はそれぞれの電極板を流れるためU字型に流れる。
それに対してバイポーラ型は、電極板の表裏に電極活物質があるため、電極板の厚さ方向に電子が移動するだけでいい。Uの字の開いている頂部を直線的に移動するだけなので、抵抗が少ないのだ。
さらに電極板と各セルの仕切りを省略できるので、必要なスペースが小さくなる。これによってエネルギー密度が高まるのである。
わかりやすく例えると、乾電池型のニッケル水素電池では電圧を高めるために直列つなぎにして連結させるが、これを乾電池を切り開いて板状にして重ねたものがバイポーラ型に近いと思っていい。どちらがスペース効率、電導率に優れるかは、想像するまでもないだろう。
トヨタの電動化に対するノウハウの深さが感じられる
バイポーラ型電池の仕組み自体は、古くから考え出されていたものだ。しかしこれまで実用化は難しいと考えられていた。
2020年に、FB(フルカワバッテリー)のブランドで知られる古川電池と、その親会社である古川電気工業がバイポーラ型鉛蓄電池の実用化に成功したことを発表し、2022年から再生可能エネルギーの蓄電システム用に出荷することになっている。
これが実用化第1弾だと思っていたら、トヨタが新型アクア用のニッケル水素バッテリーでバイポーラ型を実現して搭載してしまったのである。
これには電池業界の技術者もビックリしたことだろう。実は2016年にトヨタと豊田自動織機は、このバイポーラ型ニッケル水素電池の特許を申請している。
つまり、その前から実用化に向けて研究開発を続けていて、特許を取得するほどのブレイクスルーを実現し、それが新型アクアでようやく投入できた、という訳なのだ。
今回の新型アクア用バッテリーの場合、単にバイポーラ型にするだけでなく、高容量化にも成功しているのがポイントだ。電圧は変わらないとしても電池容量を増やそうとすると、水素イオンを吸収する負極側の電極活物質の厚みを増やす必要があった。
しかし電極活物質の厚みを増やすと、導通性が低下してしまうという問題があったのだが、件の特許技術によって、それを解消している。
バイポーラ型によって電極板のスペースを減らして、直列つなぎの抵抗を減らしているだけでなく、電極板と電極活物質の導通を高めて1つのセルで充放電できる容量を高めることにも成功しているのだ。
これによって1セルあたり1.5倍の電池容量を実現し、コンパクト化にも成功していることから、先代アクアと同じ体積のバッテリーユニットで1.4倍のセルを搭載可能になったことで、約2倍のバッテリー容量を実現しているのである。
勢力図に変化? 新しい「バイポーラ型」は今後トヨタのハイブリッド車で主流へ
トヨタは、ハイブリッド車のほとんどに、このバイポーラ型ニッケル水素電池を採用していくことになるハズだ。リチウムもコバルトも使わないことに加え、安全で高容量となれば、リチウムイオン電池を搭載するメリットは少ない。
それでもEVやプラグインハイブリッドには、今後もリチウムイオン電池が使われ続ける(全固体電池も含む)だろう。エネルギー密度は高まっても、一気に大電流を出し入れできる出力密度に関しては、やはりリチウムイオンのほうが優れているからだ。急速充電や急加速の性能では、ニッケル水素では分が悪い。
したがってこれからもリチウムイオン電池との使い分けが続くだろう。しかしバイポーラ型によってニッケル水素電池を一線級のバッテリーに引き上げたことは、これからの電動車の搭載電池の勢力図に影響が出ることは間違いない。
そして、リチウムイオンバッテリーでもバイポーラ型にすることは理論上は可能だから、今後開発が進めばリチウムイオンバッテリーのエネルギー密度は大きく高まり、EVの性能向上にも貢献できるハズだ。なぜなら実用化が待たれるリチウムイオン全固体電池でさえもバイポーラ型の試作に成功しているからだ。
話をアクアのバイポーラ型ニッケル水素電池に戻すと、今回のハイブリッドシステムで素晴らしいのは、全車に外部給電システムが搭載されていることだ。1500Wの出力を誇る外部給電があれば、ほとんどの家電製品が使えるから、停電時には大いに助かる。
実際に使わなくても、安心できるユーザーは多いことだろう。それを実現できたのも、こんなにコンパクトなクルマに容量の充分なバッテリーを搭載できたことが大きい。
これほど安心で便利、優れたシステムを搭載した超省燃費なクルマを低価格(198万円~)で発売した、トヨタには脱帽しかない。ハイブリッドを除外しようとしている頭のカタい欧州委員会の面々に試乗してもらいたいと思うほどだ。
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