■スポーツカー業界は腕時計業界とそっくり?
一方で、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなどの高級スポーツカーは隆盛を極め、販売台数をどんどん拡大しているのだから皮肉だ。
この状況は、腕時計業界と非常に似通っている。70年代、日本の腕時計メーカーはクオーツ技術で世界を席巻し、スイス製の機械式腕時計を絶滅寸前にまで追いやった。それは90年代、スカイラインGT-RやNSX、ランエボ、インプレッサが世界を席巻し、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェが会社存続の危機に見舞われた図式とそっくりである。
ところが現在、その構図はほぼ逆転。生産個数を見ると、スイス製は世界のわずか2%だが、売上高では5割以上を占めている。腕時計業界は、スイス製の高級機械式腕時計と、その他の汎用品に完全に二極分化したのだ。
スポーツカー業界はもっと極端で、売上高はもちろん、もはや生産台数でも、スーパーカー系が大衆車系と拮抗している。スイス製機械式時計が、宝飾品として完全に息を吹き返したのと同様、伝統的なスポーツカーブランドも、世界的な金余り現象とマッチして、宝飾品として驀進を続けている。
かつて国産クオーツ腕時計も国産スポーツカーも、性能(正確性や信頼性、速さ等)で他を圧倒したが、そういった性能が当たり前のものになると、宝飾品としての価値がすべてを握るようになった。その観点からすると、1000万円以上の国産スポーツカーが生き残るのは難しい。NSXが生産終了になったのは当然で、GT-Rも厳しいだろう。
新型フェアレディZの価格は、500万円台から600万円くらいと噂されている。これはスープラのV6ターボの731万円に比べると大幅に安く、断然お買い得だが、台数は望めない。出してくれるだけで本当にありがたいですが……。
■ポルシェはスープラの3倍売れた⁉ 国産スポーツの現在地と今後
今年上半期のスープラの国内販売台数は611台。一方フェラーリは566台、ランボルギーニも271台売れている。ポルシェはなんと3924台! ポルシェの場合は半分強がSUVだが、それでも911/ボクスター/ケイマンが、合計してスープラの3倍売れているわけで、大衆車ブランドのスポーツカーが、いかに追い詰められているかがわかる。
最も台数が売れている国産スポーツカーが、マツダ ロードスターだ。今年上半期の販売台数は3237台。価格帯は260万円からで、だいたいフェラーリの10分の1だが、台数でフェラーリの6倍近く売れたのだから、売上高ではいいセンで戦っている。
ロードスターの善戦は、世界的にも同様だ。2020年3月期のロードスターのグローバル販売台数は、2万6630台。フェラーリが約1万台だから、その3倍近い。内訳を見ると、日本国内が4518台。北米が9758台、欧州が11340台(日欧米を除く地域で878台)。
ブランド意識の高い欧州で一番売れているのだから、本当に涙が出る。ロードスターには、フェラーリなどの欧州製超高級スポーツカーとはまったく対極の魅力があり、価格はそれらの10分の1。ここに国産スポーツカーの勝機がありまそうだ。というか、ここにしかないだろう。
新型BRZの価格は、ロードスターより若干上で308万円からだが、おおむね同水準にある。86/BRZはデザインが凡庸なので、海外でロードスターほどの健闘は難しいだろうが、先代同様、先進国の一部クルマ好きの心に食い込み、日本車の意地を見せてくれるのではないだろうか?
とは言うものの、それも電動化されるまで。EVスポーツカーは有望との声もあるが、個人的には疑問だ。モーターには内燃エンジンほどの官能性はなく、EVになってまで、人々がスポーツカーにしがみつく理由はないように思える。テスラの1号車・テスラ ロードスターの加速は衝撃的だったが、すぐに飽きた。その後メジャーなピュアEVスポーツカーは出ていない。
2030年以降、欧州やカリフォルニア州でCO2排出ゼロが義務化されたら、ポルシェが計画しているような高価なカーボンフリーガソリン(水素ガソリン)でしか、スポーツカーは生き残れなくなるだろう。トヨタが開発中の水素エンジンもあるが、まったくの未知数だ。そうなったら、スポーツカーは超高級車だけになる可能性が高く、国産スポーツカーも終わりを迎える。乗るなら今しかない!
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