元陸上自衛隊の幹部で、災害対応のエキスパートでもある二見龍氏。東日本大震災での経験なども踏まえて書かれた近著『自衛隊式セルフコントロール』では、日常生活から災害対応まで幅広く役立つ自衛隊のノウハウが盛り込まれており、「目からウロコ」「すぐに実践できる」などと非常に好評だ。
東日本大震災のような、人の力を大きく超えた災害現場では、どうにもならない場面がたくさん出てくる。厳しい状況でも指揮官は、隊員たちの心のケアを行い、部隊が能力を発揮できるよう運用しなければならない。今回は、ストレスとの向き合い方を解説してもらった。
『自衛隊式セルフコントロール』はこちら
文/二見 龍(ふたみ りゅう)、写真/写真AC
■心の澱(おり)を吐き出す「解除ミーティング」
東日本大震災において、自衛隊は全力で災害派遣を実施しました。しかし、被害の範囲は非常に広く、厳しい現場となりました。津波による大変悲惨な状況を目の当たりにし、その中で活動する隊員は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかる可能性がありました。
PTSDは、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、心のダメージとなって、時間が経ってからも、その経験に対して強い恐怖を覚えます。半年後や1年後に発病し、自らの命を絶つこともある厄介な心の病気なのです。
自衛隊では、災害派遣の間、PTSDを防止するため、ストレスや心の中の澱(おり)を吐き出すミーティングを行いました。
やり方は、現場で一緒に活動したメンバーで5~10人のグループを作り、自分の体験や感じたことなどを順番に語ります。
■無力と向き合い、涙を流す
1人あたり2~3分程度、「自分が無力であったこと」、「ご遺体を見つけることができなかったこと」、「辛かったこと・苦しかったこと」など、心に引っかかっていることをすべて、そのグループのメンバーに話すのです。時には涙を流しながら話すこともありました。
これを『解除ミーティング』といいます。心の中に澱が溜まらないようにするミーティングです。この『解除ミーティング』によって、多くの隊員の心の健全性を確保することができました。心に溜め込むのではなく、吐き出して心に澱を溜めないようにすることが重要です。
強いストレスを感じた時、このように心の澱を吐き出すことは、非常に重要です。もしも、自分1人だけの状態で話せる人がいなかったり、周囲に信頼できる人がいなかったりした場合は、家族に電話をしてみるのがいいと思います。
それも難しければ、文字として文章にしてみるのも手です。自分の心に刺さっているものを吐き出すことができます。
心がもやもやしている状態であれば、筋トレやジョギングなども効果的でしょう。適度な運動は、心をすっきりさせ、集中力を高めてくれる効果が期待できます。
それでも心の引っかかりが取れない場合は、カウンセラーに相談したり、心療内科へ行ったりすることをおすすめします。早ければそれだけ早く元に戻ります。
■ストレスは軽いうちに解消する
大震災のような、悲惨な状況でなくとも、ストレスは簡単に蓄積しがちです。
日々の仕事でなかなか結果が出なかったり、上手くいかなかったりということが続くと、たいていの人は凹みます。
また、何かにつけて指導したがる上司や嫌なタイプの上司と仕事をしなければならない時には、大きなストレスが溜まります。場合によっては、怒りもプラスされるかもしれません。
イラついたり、ムカついたり、上手く物事が進まないことからくるストレスは、1日か、2日では、たいしたことはありませんが、積み重なってくると厄介なものになります。ストレスは、アメや薬を飲む時に使われるオブラートと捉えるとわかりやすくなります。
でんぷん質の薄い膜のようなオブラートは、1枚なら口の中でスッと溶けてしまいますが、100枚ともなると溶けないどころか、べっとりとへばり付いてしまい、どうしようもなくなります。1日に受けるストレスは、オブラート1枚分程度のものですが、毎日覆いかぶさり蓄積していくと、口の中で溶けずにべっとりとへばり付いたようになります。このような状態になると、精神に影響を及ぼし始め、病んでいきます。
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