マイナス253℃の液体水素で大型トラックが走る! メルセデス・ベンツの新世代燃料電池トラックが試験走行を開始

鍵を握る水素タンクの開発

 ヴェルトの試験・開発センター近くには液体水素の充填ステーション(これもプロトタイプ)が新たに設置された。なお、ダイムラー・トラックは最近、エア・リキード社と共同でトラックへの液体水素の充填に成功している。

 液体水素の充填プロセスは、摂氏マイナス253度という極低温の水素を、シャシの左右両側に搭載する水素タンク(一つ当たり40kgの水素を貯蔵可能)に補充するというもの。

 タンクの容量などは第1世代と変わっていないが、今回使用したタンクは断熱性能が非常に高く、比較的長時間に渡り低温をキープし、タンクの(アクティブな)冷却は不要だったという。

 ダイムラー・トラックは水素駆動システムの開発において、気体の圧縮水素より、液体水素のほうが好ましいと考えている。

 なぜなら、気体よりも液体のほうが顕著に密度が高く、エネルギーのキャリアとして優れているからだ。気体水素を数十MPaの高圧タンクで圧縮しても、エネルギー密度は液体水素のほうが高い(その代償として極低温が必要になるが……)。

 エネルギー密度が高いということは、より航続距離が長くなるということで、従来のディーゼル車に匹敵する輸送性能が求められる分野であれば、液体水素の使用が妥当というわけである。

 GenH2シリーズの(量産車での)開発目標は、1000km以上の航続距離実現だ。これを達成すれば、FCEVトラックは様々な用途に柔軟に使えることになる。とりわけ「重量物輸送」と「長距離輸送」はバッテリーEV(BEV)がやや苦手とする分野であり、販売台数から言っても重要なセグメントだ。

 ダイムラー・トラックはFCEVトラックの量産開始を2020年代後半に予定している。23年頃に顧客の下での実証試験、25年以降に量産化し、27年頃に顧客に納車するというロードマップだ。

水素技術に対する広範なコミットメント

マイナス253℃の液体水素で大型トラックを動かす! ベンツの新世代燃料電池トラックが試験走行を開始!!
燃料電池システムはボルボと合弁のセルセントリック製とみられる。ハンドルを握るのはベンツ・トラックの車両テストを担当するクリストフ・ヴィーバー博士

 これに併せてダイムラー・トラックはリンデ社と共同で新しい液体水素の取り扱いプロセスを開発中だ。「sLH2」(subcooled liquid hydrogen)というこの新技術は、通常より高い圧力と温度管理を利用して、充填時の損失を回避し、より高い充填密度を実現するというもの。

 このアプローチには普通の液体水素より充填が簡単になるというメリットもある。同技術を使った最初の充填ステーションを、2023年にドイツに建設する予定となっている。

 sLH2技術に関してダイムラー・トラックとパートナー企業は高い透明性を目指しており、共同開発したインタフェースなどは、公開技術とする計画だ。

 その目的は、より多くの企業や組織と協力することで、液体水素の新規格に関する充填・車両技術の開発を促進し、新しい燃料補給プロセスをグローバル市場において確立することだという。

 インフラ面では、ダイムラーとシェル、BP、トタルエナジーズなどが共同で欧州の重要路線沿いに水素の充填ステーションを整備することにしている。また、ダイムラー・トラックは水素ステーションを運用するH2・モビリティ・ドイチュラントに出資している。

 これに加えて、ダイムラー、イヴェコ、リンデ、OMV、シェル、トタル、ボルボの各社は、「H2アクセラレート」(H2A)利益団体の一員として、欧州で水素トラックを本格的に展開するための環境整備で協力する。

 ダイムラーとボルボは商用車ではライバル関係にあるが、燃料電池開発・製造の合弁企業セルセントリック社を2021年に設立するなど、水素技術では提携している。

 輸送の脱炭素化に向けて、ダイムラー・トラックは戦略的な方向性を明確に打ち出している。すなわち、バッテリー電気駆動と水素を使った駆動方式の両方を用いてポートフォリオを電動化する両面戦略だ。

 ダイムラー・トラックは最終目標として、2039年までに世界の主要市場すべてで、販売する新車を走行時にCO2を排出しないカーボンニュートラルとすることを掲げている。

【画像ギャラリー】液体水素を使用するダイムラー・トラックの「GenH2」シリーズを画像でチェック!(8枚)画像ギャラリー

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