初代ソアラを作った男が白洲次郎からもらった手紙

初代ソアラを作った男が白洲次郎からもらった手紙

 日本が誇る名車、トヨタ・ソアラにまつわる心温まるストーリーを知っているだろうか? 

 初代ソアラの開発責任者、岡田稔弘氏が、ある人物から一通の手紙をもらった。戦後の日本において唯一、GHQと対等に渡り合い、GHQ要人から「従順ならざる唯一の日本人」として言わしめた人物、白洲次郎氏からの手紙だったのである。

 はたして、白洲次郎氏から送られた手紙には、どんなことが書かれていたのだろうか? 岡田稔弘氏が当時の状況を証言する。

INTERVIEW/佐藤篤司
写真/佐藤篤司、岡田稔弘、ベストカー編集部、共同通信社
取材協力/トヨタ博物館
初出/ベストカー2015年2/10号〜3/10号
※2015年取材当時の内容を再構成したものです


■主査として初めて担当した初代ソアラ

初代ソアラは1981年2月〜1985年12月まで販売。キャビンと同時にボディ全体に“踏ん張りスタイル”という安定感のあるデザインは新鮮な印象を与えた。さらに「トーン・オン・トーン」という上下に同系色の2色でまとめた配色も珍しかった

 大学卒業後、1964年にトヨタ入社し、私のキャリアがスタート。カローラ、コロナ、クラウンなど、多くの乗用車開発でデザインを担当してきた私が、主査として初めて担当したのが1981年、世に送り出した初代「ソアラ」だった。

 トヨタ2000GT同様、「トヨタの技術力の高さを証明する」ために作ったソアラ。当時としては革新的なカーエレクトロニクスと高性能なエンジンやサスペンションなどを専用開発し、まさに贅を尽くしたスペシャリティカーだった。

 それまで欧州車が独占していた超高性能GTというカテゴリーに大きな一歩を記す事になったソアラは大きな話題となった。

 お客さんのほうからディーラーに足を運び、値引き交渉すらしないという、この頃にはほとんど考えられないような売れ方をした。

 そして第2回日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、その直後に起きた「ハイソカーブーム」への足がかりを付けるなど、大きな成功を収めることになった。

■岡田稔弘(おかだ としひろ)。1935年(昭和10年)群馬県桐生市生まれ。桐生高校から京都工芸繊維大学へと進み、卒業後1959年にトヨタ自動車工業入社。カローラ、コロナ、クラウンなど、まさに日本のモータリゼーション興隆期の真っ只中で多くのヒット作のデザインに携わる。1964年には「アメリカ アートセンターカレッジ」に1年ほど社員として留学経験を積み帰国。トヨタ2000GTの「ボンドカー誕生」に寄与するなどを始め、国内での乗用車開発でデザインを担当。そして主査として初めて担当した「ソアラ」を1981年、世に送り出す。当時としては革新的なカーエレクトロニクスと高性能なエンジンやサスペンションなどをソアラ専用で開発するという、まさに贅を尽くしたスペシャリティカーは、それまで欧州車が独占していた超高性能GTというカテゴリーに大きな一歩を記した名車として語り継がれることになる。その後も2代目、3代目とソアラ開発の開発に携わり、現在のレクサスにつながるプレミアムブランド確立の先駆けとなった

■初代ソアラに物申す人物がいた!

写真提供/共同通信社

吉田茂首相の懐刀として知られ、戦後GHQと渡り合った白洲次郎氏。晩年1968年式ポルシェ911S(2L)を1971年式911S用の2.4Lに載せ替えるなど無類のクルマ好きとして知られた

 そのソアラに対して物申す人がいた。デビューした年の秋頃だったと思うが、当時の豊田章一郎社長(名誉会長、現章男社長の父)に呼ばれた。

「君の作ったクルマにいろいろと文句を言っているおじいさんがいるから、会って話を聞いてみなさい」という。

 その相手の名は“白洲次郎”。今でこそ、吉田茂の片腕としてGHQと対等に渡り合って戦後処理を行った男として知られるが、当時、その名を知る人はほとんどいなかった。

 白洲さん自身も、自らのことを多く語るような人ではなかったため、著書もなく、もちろん私も知らなかった。さらに会長を務めていたという大沢商会についても私は知らなかった。そんな白洲さんが無類のクルマ好きであり、なんとソアラも所有した上で、いくつかの文句があると言う。

 私はアポイントを取り、緊張しながら大沢商会を尋ねた。どんな文句を言われるのか? と思って初めてお会いした白洲次郎さんは79歳。お年は召しておられたが180cmを超す長身、端正な顔立ち、英国流の洗練された身こなしが実に印象的な紳士だった。

 何を言われるか緊張していると、ちょうどお昼過ぎだったから「ご飯でも食べに行こう」と誘われた。

 六本木の小さなフランス料理屋でご馳走になりながら話をしたのだが、それでもいっこうにクルマの話にならない。

 苦情があるならはっきり言ってくれと思ったが、結局「今度、東京に来る時はまた連絡をしなさい」という言葉を貰い、その日は失礼した。

次ページは : ■白洲次郎さんからの一通の手紙

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