初代ソアラを作った男が白洲次郎からもらった手紙


■白洲次郎さんの没後、正子夫人は運転免許を持っていないのに2代目ソアラを買ってくれた

2代目ソアラ購入を即断した正子夫人からの自筆の手紙。優しい内容が人柄をそのまま表しているという。白洲次郎さんが亡くなられた後も岡田氏は手紙などで交流が続いていた

 実は白洲さんからも「2代目が出たら買うよ」と約束をもらっていた。しかし、デビューの3ヶ月ほど前に白洲さんは亡くなられた。1985年11月28日のことである。私は果たされることがなくなった約束を、心から残念に思った。

 ところが正子夫人(随筆家)が、代わってその約束を果たしてくれた。2代目ソアラ発売直後、その実車を工場で見た正子さんが、すぐに「買った!」と言ってくれたのだ。

 その「買った」のひと言は正子さんが気に入った骨董を買う時の口癖だったという。それも、正子さんは運転免許を所有していないのに買ってくれた。

「トヨタは将来、日本を背負って立つ企業に発展するかもしれない。その象徴的なクルマを買いましょう」と言うことだったようだ。正子さんとは、その後も何度かお手紙のやりとりなどをさせていただいた。

 後に分かったが、正子さんには私は“ソアラの岡田さん”として通っていた。「わたしはクルマのことに疎いので、どんなことをしている人かは知りませんでした。しかし、白洲次郎からはしょっちゅう岡田さんの名前を聞いていた」という。そんな正子さんの心意気には感動し、感謝している。

 そして当時の豊田章一郎社長と、長男で現社長の章男さん、さらに正子夫人の三名が2代目ソアラに乗り、兵庫県三田市の心月院に白洲次郎さんの墓参りに行ったのだ。

 その時、章一郎社長は「お陰様でノー・サブスティチュートのクルマを作ることができました」とその完成を墓前に報告したという。

「葬式無用、戒名不用」の白洲さんには、これしか報告する方法がなかった。もし2代目ソアラを見ることがあったら、白洲さんはなんと言っただろうか? 「また、こんな電気仕掛けばかりのクルマを作ってしまったのか!」と叱られたかもしれない。

■白洲次郎(1902年2月17日〜1985年11月28日)

 日本の実業家。兵庫県芦屋市生まれ。連合国軍占領下の日本で吉田茂に請われて側近として活躍し、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)と渡り合う。終戦連絡中央事務局や経済安定本部の次長を経て、商工省の外局として新設された貿易庁の長官を務めた。

 GHQは白洲次郎のことを「従順ならざる唯一の日本人」という印象を持っていたという。高官にケンブリッジ仕込みの英語を誉められると、返す刀で「あなたの英語も、もう少し勉強なされば一流になれますよ」と皮肉った。 白洲次郎の人と成りを神戸一中の同級・今日出海は「野人」と評している。吉田政権崩壊後は、実業家として東北電力の会長など多くの日本企業の役員を歴任した。

 クルマ好きとしても知られ、神戸一中の頃にはアメリカの高級車、ペイジ・グレンブルック、ケンブリッジ留学時代には1924年式ベントレー3Lスピードモデル(埼玉県加須市WAKUIミュージアムに保管中)、1924年式ブガッティタイプ35を所有。 東北電力会長時代にはヘルメットにサングラス、長靴で自らランドローバーディフェンダーを運転して、ダム工事現場をまわるような異色の会長だった。

 80歳まで1968年式ポルシェ911S(2Lエンジンから1971年以降の911S用の2.4Lエンジンに換装)を乗り回していた。またゴルフをたしなみ、軽井沢ゴルフ倶楽部理事長を務めた。「自分の信じた『原則(プリンシプル)』には忠実」で「まことにプリンシプル、プリンシプルと毎日うるさいことであった」と正子夫人は語っていた。遺言は「葬式無用、戒名不用」。まさに自分の信条(プリンシプル)を貫いた83年間だった。

■白洲正子(1910年1月7日〜1998年12月26日)

 随筆家。東京都永田町生まれ。父は実業家・政治家で伯爵の樺山愛輔。 1924年に女子学習院初等部を修了。梅若流の能を学んでいたため、同年女性として初めて能舞台に立つ。

 その後アメリカに渡り、寄宿制のハートリッジスクールに留学。1929年、19歳で白洲次郎と結婚。第2次世界大戦後は早くから評論家の小林秀雄、骨董の目利き青山二郎らと親交を結び、文学や骨董の世界に切り込んだ。

 この当時の東奔西走する姿を青山二郎は「韋駄天お正」と名付けたという逸話が残っている。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。著書は『お能』『かくれ里』『謡曲・平家物語紀行』『西行』『日本のたくみ』『両性具有の美』など多数。

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