初代ソアラを作った男が白洲次郎からもらった手紙

■白洲次郎さんからの一通の手紙

初めて面会して数日後にゴルフボールと共に送られてきた白洲次郎氏から来た手紙はこの一通だけだった。そこには問題点を箇条書きにしてあった。またその後、正子夫人との手紙のやりとりもあったという。近々、そうした手紙は全部、トヨタ博物館に寄贈しようかと思っている、と岡田さん

 すると数日して、白洲さん小包が送られてきた。開けてみると、中からベンホーガンのゴルフボール1ダースと一通の手紙が添えられていた。

 そこには5項目のソアラに対する“文句”が書いてあったのだ。その手紙は横文字がどんどんと出て来て、とても80歳にならんとするお年寄りとは思えない内容であった。その5項目はこう書いてあった。

白洲次郎さんから送られてきた手紙の1通目

1/ハンドルのダイアメーター(ハンドルの径)が足らん。(ステアリングの)細さは、よほどよくはなりましたが、もう少し細くしてもよいと思います。

 当時、白洲さんはメルセデスベンツSクラスにも乗っていて、それとの比較だったのかもしれない。Sクラスのハンドルは、径が大きく、握りは細いのが特徴。スポーツカーのハンドルといえば径が小さく、握りは太いのが通例で、ソアラはこの方向を意図的にとっている。

 これについては後に改良を加えたハンドルに替えさせていただいた。市販車への改良のきっかけにもなっている。

2/ターニングラジアスが大きすぎる。せめてベンツの450なみになりませんか。

 一般的にはターニングサークル、つまり最小回転半径のことだが、ボディの割には確かに大きかったが困るほどでもないと思っていた。

3/パワーステアリングはもう少し強力であってもいいと思います。

 ソアラは性格上、意図的にアシスト量をおさえて重くしている。ステアリングの径を小さくし、手応えのある操作感をねらっていたので、メルセデスと比べれば重くても個人的には問題はないと思っていた。

4/ソアラを4人乗りというのは詐欺です。2人か3人乗りにしてリフトバックにすべきです。小生のクルマをリフトバックに改造できませんか。

 これについては、確かに広くはないが、改造は無理と申し上げるしかなかった。

5/バッテリー、英国ではアクセラレーターというのですが、少しキャパシティは足りなくありませんか。

 これは痛いところを突かれたと思った。白洲さんはクルマの大きさとバッテリーの大きさを比較し、ひと目で容量が足りないのでは? と言ってきたのだ。

 すると実際に数件、バッテリーの容量不足によるクレームも入っていたのであるから、この指摘は的を射ていた。こうして私と白洲次郎さんとの付き合いが始まり、ソアラが2世代目へと生まれ変わるまで続くのだ。

■2代目ソアラについてのアドバイスは「かけがえのないクルマを作れ!」

1986年1月にデビューした2代目ソアラは1991年5月に3代目にバトンタッチするまで30万台以上を販売する大ヒット車となった

 もちろん白洲さんからは2代目ソアラに対するアドバイスもいただいた。あまり細かなことではなかったが、いまだに私の心に残っている言葉がある。

「新しく設計し、そして作るのであれば、“ノー・サブスティチュート(No Substitute)”、つまりかけがえのないクルマだよ」

 つまり唯一無二の存在であり、ソアラを「代替品のないクルマにしなさい」と、ことあるごとに言われた。

 そして完成した2代目ソアラは初代の外形スタイルを継承しながら、細部にわたり、そのクォリティは練りに練った。その上で、機能的面ではさらに進んだ電子制御技術、高性能エンジン、走行性能や室内には新素材を積極的に採用した。

 完成した2代目は「No Substitute性」がより強化されたと思える自信作であり、現実にも初代以上の大ヒットとなった。

次ページは : ■白洲次郎さんの没後、正子夫人は運転免許を持っていないのに2代目ソアラを買ってくれた

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