被害者は誰か? どう償うのか? ゴーン逮捕劇が日本自動車界に与える影響

■大多数の人たちまで迷惑をこうむる

日産にとってさらに困るのは、カルロス・ゴーン会長の不正とは直接関係のない完成検査問題等々まで、世間はセットでとらえてしまうことだ。「完成検査の現場から社長まで、日産はすべてダメだった」となる心配がともなう。

これはもちろん誤った見方だ。

警察などの不祥事も含めて、ごく一部の人たちが、勤勉に働く大多数の信用まで失墜させることは多い。

今回も同じパターンで、日産とその関連企業に勤務する大多数の真面目な人たちも被害者といえる。

2017年に発覚し大問題となった無資格者完成検査問題。ようやく収束しかけたところに、今回の事件が発覚した

■「よし悪し」は置くとして、その業績は巨大

前述の他メーカー社員に意見を求めた際、メーカーで働く人たちはその「気持ち」も語ってくれた。

「自動車メーカーの社員には、いいクルマを造ることに喜びを見い出す人が多い。給料は……企業規模が大きいわりに、まぁそんなに高くない。でも多くの人間は、いいクルマを造れればそれで本望だと考えている。

そしてゴーンさんが日産のトップに就任された時、役員会をテストコースで開くという報道があった。開発者の気持ちが分かる人なんだな、と思った。あの時の気持ちが裏切られたみたいで、ちょっと寂しい。結局はお金が一番の人だったのかな……」。

この話でもわかるとおり、カルロス・ゴーン会長は、社内的にも市場的にも人気が高かった。派手なリストラを含むコストカットには顔をしかめたが、ゴーン体制になってからGT-Rが復活したり、人気車に育ったモデルも発売され、電気自動車のラインアップやe-POWER戦略など、商品力が大幅に向上してきた。

もし1999年にゴーン氏が来日していなければ、現在のような日産ではあり得なかった。その筆頭が2007年に発売されたGT-R。世界最高峰の走行性能を持ち、現在の日産を、もっといえば日本車を代表するブランドとなった

2004年頃、日産の開発者のひとりに「開発者やデザイナーはほとんど変わっていないのに、どうしてクルマづくりが急によくなったのか?」と尋ねた。

返答は、「ゴーンさんが来てから、日産社内の風通しがとてもよくなった。やはりトップは大切。開発現場の隅々まで大きな影響を与える」というものだった。

このようにカルロス・ゴーン氏には(敵も多かっただろうが)ファンが多いから、莫大な報酬(それでも過小記載があったのだが)を得ても、「俺たちと同じクルマ好きで、儲けに走っているワケではないから、まぁいいか」という気分があった。その思いをカルロス・ゴーン氏は、自ら踏みにじってしまった。

この影響は大きい。

日産ではカルロス・ゴーン氏が前に出て(自動車業界を問わず、カルロス・ゴーン氏ほど有名な企業社長はいないだろう)、日産のブランドイメージの柱になっていた。

就任当初はリストラを断行して莫大な有利子負債を完済し、スポーツカーのGT-R復活から電気自動車のリーフまで、優れた商品開発を指導した。三菱自動車との提携なども含めて、よし悪しはともかく、これらはすべてカルロス・ゴーン氏の業績とされた。

その氏が刑事責任を追求されれば、日産の過去20年間が否定されてしまうのだ。

■日産は今後、何をすべきか?

問題は今後の展開だが、日産にとって最も重要なことは、この件に関する事態の進捗状況を誰でも閲覧できるホームページなどで毎日伝えていくことだろう。

企業が不祥事を起こした場合、イメージダウンを恐れて隠すことにより、ますますイメージを下げてしまう。だから新事実が分かったら、常に公表していくことが不可欠だ。

その内容はカルロス・ゴーン氏に関する事実関係から、同氏に対する損害賠償請求まで多岐にわたるが、消費者が抱く素朴な疑問にも可能な限り答える必要がある。

たとえば「1年間に数億円もの報酬を得ているのに、なぜ過小記載をしてまで、さらなる金額の上乗せを求めたのか。そんなにお金が欲しい理由はなにか」、「自分の欲望を満たすために、なぜ犯罪に手を染めたのか」等々。

事実関係だけでない、カルロス・ゴーン氏の意思にまで踏み込んだ報告と公表が求められる。

氏はそこまで気になる人物であるからだ。「ブランドを代表する」というのは、そういうことだ。

1999年に来日し、2000年に社長へ就任、2018年4月からは会長職に退いたものの、長く日産を率い、日産を代表してきたカルロス・ゴーン氏。特に近年は意欲的なアライアンス事業を推し進め、日産ルノー三菱連合は2018年上半期、グループ別世界販売台数で世界一となった。それだけに今回の事件の影響はすさまじく大きい

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