被害者は誰か? どう償うのか? ゴーン逮捕劇が日本自動車界に与える影響

被害者は誰か? どう償うのか? ゴーン逮捕劇が日本自動車界に与える影響

日産自動車会長、三菱自動車会長、ルノーCEOを務めるカルロス・ゴーン氏が、2018年11月19日の夕刻、東京地検特捜部により逮捕、収監された。

本件の全容が明らかになるのはずいぶん先の話になるだろうし、そもそもいまだ状況が(各メーカーの取締役会など)動き続けており、予断を許さない。

なにしろ驚天動地の大事件ということで、日仏両政府の動向や経済界全体への影響、今後の株価の動きなど、さまざまな「大きい話」が日々伝えられている。

しかし自動車専門メディアとしては、やはり「自動車界への影響はどうなのか?」というところを真っ先に気にしたい。

この事件による日本自動車界への影響は、どのようなものになるのか? 日産自動車はこの先どうなるのか? どうすればよいのか? 他の自動車メーカーの人たちはどう見ているのか? もっといえば、日産車を買おうとしている人に対して今回の事件は影響があるのか? あるとすればどのようなものなのか?

そうした話を、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏に伺った。

文:渡辺陽一郎


■「被害者」は誰なのか?

今回の一件でカルロス・ゴーン氏とその側近だけが悪者になり、「日産は被害者」という見られ方をしたなら、日産にとって不幸中の幸いといえるだろう。

しかし実際はそうならない。「有価証券報告書に、ウソの記載をするような会社」と見られてしまう。

傷ついたのは「日産」というブランドそのもの

今回の一件に関して、ほかの自動車メーカーに務める複数の人たちに意見を求めると、次のような返答が多かった。

「自動車メーカーの場合、給与等にかかわらず、多額のお金の支出には常に複数のチェック機能が働く。したがって、日産のような不正は常識では起こり得ない。おそらく内部のシステムに相当詳しい人が、網の目をかいくぐるようにしてこの不正を指示したに違いない」。

つまり相当に巧妙なやり方ではあったが、世間は「日産の社内的なチェックが弱かった。日産にはかつての官僚的な体質が今でも残り、リスクに甘く今回の不祥事を招いた」という見方をするだろう。

■90分間の単独会見を行った西川社長は…

ゴーン氏逮捕直後の2018年11月19日夜には、日産自動車の西川廣人社長が出席して記者会見が行われたが、この時の言動にも違和感が目立った。

「カルロス・ゴーン氏の不正を暴いた」という趣旨の言動が多く、同氏が残した影響を「負の遺産」と糾弾する場面もあった。

社長は社内で発生した事案をすべて把握しているわけではない。

事件や事故が発生した時、責任を取って矢面に立たされる社長が可衰想だと思うこともあるが、今回の不祥事はまったく違う。西川廣人社長とカルロス・ゴーン会長は親子のような間柄だ。西川廣人社長が、数年間にわたってカルロス・ゴーン会長の不正に気付かなかったとすれば、社会通念では社長にも相当程度の「帰責性」が発生する。「西川廣人社長は、なぜカルロス・ゴーン会長の不正を見抜けなかったのか」という話だ。

ゴーン氏の逮捕当日、日産の西川社長は単独会見を実施。数ヶ月前から社内調査を進めていたことを明らかにした。今後、日産自動車からゴーン氏への損害賠償請求訴訟もありうるだろう

西川廣人社長は、カルロス・ゴーン氏に経営の権限が集中していたことを不正の理由に挙げたが、西川社長もその権限集中を支え続けた一人であるはずだ。

世の中には、さまざまな権限を一手に掌握することで、素早い経営判断とトップダウンを行い、業績を高めている社長が大勢いる。権限が集中するからこそ、一層入念なチェック体制が必要だったが、日産と日産経営陣はそれを怠っていた。

そういう意味で、カルロス・ゴーン氏に経営権限を集中させた責任の一環は、西川廣人社長など日産と三菱の上層部も重く負っている。

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