商用車に厳しすぎるユーロ7提案
ただ、欧州の自動車メーカーでつくるACEA(欧州自動車工業会)は、新しい規制は非現実的であり、ゼロ・エミッションに向けた取り組みをかえって後退させるとして深刻な懸念を表明した。
その理由として車両コストの著しい増加に対して、環境上の利益が少ないことを挙げる。実際に欧州委員会が公開したファクトシートによると、ユーロ7によるコストの増加は小型車では90~150ユーロ(1.3~2.2万円)にとどまるが、大型車になると2600ユーロ以上(約40万円)と、かなりのコスト増を想定している。
このため、ACEA商用車部会代表でボルボグループCEOのマーティン・ルンドシュテット氏は次のように述べている。
「ユーロ7の規制案は厳しすぎる。適合するためには、電動化や燃料電池の開発に当てていたリソースの一部を内燃機関の開発に戻さなければならない。これは地球環境とEU市民と自動車産業の誰にとっても良くないことだ」。
ドイツ自動車工業会(VDA)もスケジュールに余裕がないことを上げて、「まったく現実的ではない」と批判する。
小型車は2025年の7月1日、大型車の規制開始は2027年の7月1日が提案されている。継続して事業を行なうためには、それまでに型式認証を終えている必要があり、スケジュールは厳しい。
大型車に対する規制が非常に厳しい理由として欧州委員会は、2035年までに小型車の大部分がゼロ・エミッションに移行するいっぽう、大型車では内燃機関が一定数残ると予想され、確実な排出削減のために厳格な基準を設ける必要があったと説明する。
ユーロ7の排出規制とCO2排出基準は欧州のゼロ・エミッション移行に向けた両輪となっており、乗用車・バンのCO2排出は2035年までに100%削減が提案されている。トラック・バスについては審議中だ。
大型車のユーロ7基準値
大型車の排出ガス試験は、従来、エンジン単体で行なう台上試験であった。エンジンが安定した状態で行なう定常サイクル試験(ステーショナリー・サイクル)は実走行との乖離が大きくなり、実走行の変動を加味した過渡サイクル試験(トランジェント・サイクル)が重視されるようになった。
また試験方法が異なると数値の単純な比較ができないため、基準調和を図ったWHSC(基準調和定常試験)とWHTC(同・過渡試験)がユーロVI世代で導入されており、日本もこの試験方法を採用している。
近年は台上試験だけでなく、車載式の排ガス測定器(PEMS)による実車での排出量と、NTE値(超えてはいけない値)による規制にも焦点が当てられている。
ともあれ、ユーロVIのエンジン試験サイクルはHWSCとWHTCであった。これがユーロ7ではWHTCのホットサイクルとコールドサイクルに変更された。コールドサイクルはコールドスタートに近いより厳しい試験だ。
そのほかの変更点は次の通りだ。
HC(炭化水素)はユーロVIではNMHC(非メタン炭化水素)の基準値であったが、ユーロ7でNMOG(非メタン有機ガス)に変わった。これは米国のCARBなどと同じ基準となる。
CH4(メタン)はガスエンジン(天然ガス・石油ガス)のみの基準値だったが、ユーロ7では全ての大型車に追加された。NH3(アンモニア)の基準値はこれまで百万分率(ppm)で表していたが、他の物質と同じく出力当たりの排出量(mg/kWh)に変更された。
先述の通り、N2O(亜酸化窒素)とHCHO(ホルムアルデヒド)はユーロ7で新たに追加されたものとなる。
ユーロ7提案の基準値については表を参照して欲しい。
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