何故、スズキだけに作れたのか!?
スズキの新型軽自動車ハスラーが、「ワゴンR以来の好調なスタート」(スズキ広報部)という記録的な猛ダッシュをみせている。燃費競争に明け暮れていた軽自動車界に、いい意味で波乱を呼んでいるハスラー。新たなジャンル開拓の救世主となるのか。スズキが投じた一石を徹底解剖してみたい。
昨年の東京モーターショーでお披露目され話題を集めていたハスラー。1月8日の発売前から事前受注が好調だったが、発売から日ほどすぎた1月日の日本経済新聞に「2万5000台以上を受注したため2割増産する」旨の記事が躍った。スズキは、伝統的に発売直後の受注台数を公表していないので、2万5000台の根拠は定かではないが、ワゴンR以来というのだからスズキにとっては史上最高の出足といえる。
ベストカー読者諸氏はご存じだろうが、年9月にデビューしたワゴンRは、全高と室内高を高くしてトールワゴンという新ジャンルを開拓した。それまでの〝狭い〟軽自動車のイメージを払拭する革命的なニューカーで、すぐに大人気となり発売後数カ月で増産体制をとった。
クロスオーバーSUVという新しいジャンルを切り拓くハスラーは、その革命的ワゴンRに匹敵する売れゆきなのだ。最新の編集部調査によると、納車は2トーンカラーが8カ月、モノトーンでも4カ月かかるという。2トーンモデルにいたっては、いま発注して納車がなんと10月になる人気ぶりだ。
この爆発的な新車は、どのようないきさつで生まれたのだろうか。調査してみると、どうやら鈴木修会長兼社長の直感の産物のようなのだ。会食の席で「Keiのようなクルマが欲しい」という個人的な要望を聞いた鈴木会長、直ちに行動に移す。国内営業担当の田村実副社長に開発を指示した。このへんの経緯は、ページに掲載している福田氏のコラムに詳しいので参照してほしい。
一般的な自動車メーカーなら、トップが得た情報をまず社内で研究し、市場ニーズを調査するだろう。さらに会議を重ね、GOサインが出て開発チームが立ち上がる。そんなプロセスだと思う。しかしスズキは違った。鈴木会長がいけると判断するやいなや、田村副社長をリーダーとするスペシャル開発チームを結成。副社長直轄で意思決定も早かったようだ。2年ほどで市販にこぎつけたという。
社員の犠牲のうえに開発された大人気のハスラー
ハスラー誕生のきっかけは鈴木会長の直感だったかもしれないが、それを製品化したのは、エンジニアをはじめとするスズキ社員の努力のたまものだろう。前ページでは、まるで実施しなかったかのような印象を与えたかもしれないが、短期間でマーケットリサーチもしたはずだ。
スズキという会社の根底には「お客さま第一主義」が脈々と流れている。なにしろ、社是の第一を「消費者の立場になって価値ある製品を作ろう」としているくらいだ。この価値ある製品、がくせ者といっていい。消費者にとって価値ある製品とは、「ニーズにぴったりで廉価なクルマ」にほかならない。もちろんニーズも重要だが、最も重いのが価格、安さであることはいうまでもない。
そこで思い出されるのが、79年5月に登場した初代アルト。これまた軽自動車の常識をひっくり返すクルマだった。なにしろ、4ナンバーである。商用車登録だから税金が安い。しかも価格は、当時の軽自動車として破格の万円だ。CMで「アルト万円」と大々的にアピール、人々の記憶に残った。当時、流行語大賞があれば、間違いなく大賞候補だろう。
ボディ形状はボンネットバンでFF駆動。中はそこそこ広いが、その広さを前席に割くという思い切ったレイアウトを採用したのもすごかった。今も当時も、クルマの乗車人数は1人か2人が圧倒的に多く、そのデータに基づき前席は乗用車並みの広さと乗り心地を確保した。そのぶん、後席は目をつぶった設計だ。この思想は、当然ライバルメーカーも後追いしている。
さらに、徹底したコストカットで実現した万円。ベストカーはここに注目したい。ワゴンRも今回のハスラーも、新ジャンルのパイオニアとしてはリーズナブルな価格設定も人気の要因とみられる。当然ながら、パーツの流用や原材料費の節減、生産体制の効率化などなどのコストダウンは行っている。
しかし、それではライバルに勝てない。では、どこでさらにコストを下げているのか。これこそが、スズキの本質。社員が爪に火をともすように経費を削っているのだ。もうひとつ注目したいのが研究開発費である。スズキの年3月期の研究開発費は1192億円。THNの大手3社は別格として、第2グループ5社のなかではダントツに多い。
スズキは、伝統的に研究開発費を惜しまないメーカーでもある。ここで、ベストカー流の強引三段論法を展開すれば、「血のにじむような社員の経費節約が、研究開発費の増大とクルマの価格引き下げを実現し、ハスラーのような新ジャンルのクルマを開発して大人気になる」。
かなり強引だが、スズキがハスラーを作った要因のひとつといって過言ではないだろう。
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