いま私たちの周りには、たくさんの高性能車が溢れています。燃費が良くて、走りの性能も十分なクルマ。そんな最新のクルマがスペックを競うように次から次へと発表されては、あっという間に忘れ去られています。「いいクルマ」って性能だけなのでしょうか?
「飽きないクルマ」をキーワードにクルマの魅力をいま一度見つめ直してみます。
文:水野和敏/写真:編集部
BestCar PLUS 2016年5月18日号
元GT-R開発責任者が考える飽きないクルマとは?
クルマにはふたつの使命が課せられています。それは「社会的使命」と「感性的使命」です。
社会的使命とは国が定めた法律のようなものだと考えてもいいでしょう。燃費であったり、環境性能であったりします。人間で言えば理性というべきものです。
現在の日本車の多くは、この社会的使命を果たすことに終始しています。
ですが、例えば燃費のよさで売り出したクルマは、それを凌ぐ燃費のクルマが登場すると、一気に輝きを失ってしまいます。飽きられてしまうのです。
では飽きないクルマとはどういうものでしょう。それが「感性的使命」を持ったクルマです。操縦安定性や音、乗り心地やデザイン。
これらはメーカーが独自に決めるものです。このメーカーが独自に決めた感性に強く符合したユーザーは、そのメーカーのクルマを所有しつづけます。飽きることがないのです。
つまり飽きないクルマを作るには、この感性の部分を大事にすればいいのですが、現在の日本ではこの感性の部分を磨くところにまで、人材を割けないという事情があります。
現代のクルマの開発工数は1990年代に比べ、約70%も増えています。どんどん厳しくなる安全基準や環境基準、ハイブリッドなどが出てきているので、そうなっているのですが、日本国内では、その増えた70%ぶんの工数をこなすだけの人的資源は、残念ながらありません。
それゆえ社会的使命だけを果たしたクルマを作るしかないのです。ところが欧州では旧共産圏の人材などがあるため、その70%をカバーすることができます。社会的使命と感性的使命の両方を備えた欧州車と、社会的使命しか果たせない国産車。どちらが面白いか、どちらが飽きないのか、すぐわかると思います。
私は今、台湾の華創車電という会社で仕事をしていますが、日本のメーカーと協力することで、日本で足りていない70%ぶんの人的資源で補うことができると考えています。日本と台湾を結ぶことで、国産車が失っている感性的使命の部分を補う。私が台湾の会社で仕事をしている本当の理由は、まさにそこなのです。
水野和敏
R35型GT-R開発責任者。過去にはP10型プリメーラ、R32型スカイラインなど、数多くの名車の開発を担当。現在は台湾、華創車電社の車両開発担当上級副社長にして、日本の華創日本社、代表取締役COO
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