■「さすがに決算会見でそういう話をするのは差し障りがある」
アメリカの自動車関税の影響や、2026年3月期の年間グループ世界販売台数見通し1120万台(2025年3月期は1101.1万台だった)とさらなる拡大、研究開発費1兆3700億円、設備投資費2兆3000億円と、将来への投資もぬかりなく、そのうえさらに1.5億台におよぶ保有台数の活用(中古車、用品、メンテ事業等)強化など、「横綱ぶり」が際立つトヨタの決算発表。しかし会見で最も盛り上がったのは質疑応答だった。
ーー関税や為替の影響があり北米市場は不透明さが増してゆく傾向にあるが、それでもトヨタの今期北米市場販売見通しは294万台(前期は270.3万台)と、20.4万台増を見込んでいます。この北米市場での販売台数増加要因はどのようなものを考えているのでしょうか?
トヨタ宮崎洋一副社長「前期はインディアナ工場(売れ筋のグランドハイランダーとレクサスTXを生産)を停止した関係で、ご注文いただいたクルマをお客様へお届けできませんでした。今期は同工場のフル生産を見込んでおり、そのぶんがプラスされています。また、関税や為替の影響は見通しが難しく、いろんな変化が起こる中で、調整していくことを前提に、現時点で【これくらい】という数字を出しています」
ーー2025年3月期(通期)のBEV販売台数は14.5万台、2026年3月期はBEV販売31万台見込み。213.8%と急増させる見通しなのはすごいと思いますが、一方で2023年6月に、トヨタは「2026年までにグローバルでBEV150万台販売」という目標を出しました。2025年度に31万台で、それを2026年までに150万台まで伸ばすのはさすがに無理がないですか? 目標の下方修正は考えていますか?
トヨタ佐藤恒治社長「まず今期のBEV販売台数については、現時点で発表しておりこれから発売する車両や、これから発表する車両の積み上げで、これくらい(グローバルで年間約31万台)いくだろう、という数字となっています。
また、仰るとおり、トヨタは2023年の時点で、2026年までにBEV販売150万台、2030年までに350万台という目標を掲げました。ただ、BEVは、生産も販売も、自動車メーカーだけが頑張れば伸びていくというものではないと考えています。やはりお客様ありきであって、【実需】に合わせて投資のタイミングやサプライチェーンの調整などをしていく必要があります。その実需を見ながら、目標を調整、変更していくこともあると考えています」
非常に興味深い応答が続いたが、今回の会見の最大の山場となったのは、質疑応答で最後の質問者となった自動車ジャーナリスト山本シンヤ氏による質問と佐藤社長の回答だった。
(山本シンヤ氏)最近、楽しめるクルマ、ワクワクするクルマの話題が少ない気がしませんか? このあたりどうお考えかお聞かせください。
佐藤社長「ワクワクするクルマについて、ありがとうございます、まったく同感で、クルマは楽しくなければクルマじゃないと思っていて、コモディティ(代替可能な日用品)には絶対にしないぞ、という強い覚悟を持って取り組んでおります。
左脳的に、ロジカルシンキングで、カタログスペックが上がればクルマは売れる、という時代ではありません。単にモデルチェンジしても、多少燃費がよくなっても、多少デザインが変わっても、それで売れるという時代ではなく、(勝負どころは)心が動く商品を、どれだけ熱意を持って作れるか、だと思っています。
これは、たとえばスポーツカーだけの話ではありません。スポーツカーはもちろん尖がっているべきだと思いますが、スポーツカーでないクルマの中にも【ここだ!】という情熱がないとお客様には思いが届きません。
だからそういう【ここだ!】を作ってくれるよう、各プロジェクトチームにはハッパをかけていますし、そういうトヨタでありたい、と思って今期も取り組んでいきたいと思います。
山本さんがいま脳裏に浮かんでいるであろう趣味性の強いクルマも、時期がくればいろいろお話しできることがあると思いますが、さすがに決算会見でそういう話をするのは差し障りがあるかと思いますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います」
それまで比較的穏やかで慎重な言葉遣いだった佐藤社長が、急に早口になった瞬間だったし(佐藤社長がバリバリのエンジニア出身でゴリゴリのクルマ好きなのは、この場にいた自動車ジャーナリストや自動車専門メディア、中継を見ていたクルマ好きにとっては周知の事実)、Youtubeのコメント欄がいきなり拍手の絵文字だらけになった瞬間でもありました。いい質問といい回答だったなー。
ワクワクするクルマ、今年度たくさん出るってことですよね! 楽しみに待っています!

コメント
コメントの使い方これからもスポーツカーや趣味性高い車の市場をトヨタが引っ張っていってくれそうで安心しました。
そこに他も乗っかれる市場自体を作ってきてくれてますからね。また、北米関係もその通りで
即急な対策が必要なのは経営影響がトヨタやスズキの十倍大きいスバルマツダたちなんですよ。
当然早ければリスク大きく、難易度高い。心配です。