2026年1月6日、都内ホテルで開かれた自動車5団体の賀詞交換会で、この1月、新たに日本自動車工業会(自工会)会長に就任した佐藤恒治氏(トヨタ自動車社長)が記者陣の取材に答えた。佐藤新会長は関税やブロック経済、災害リスク、重要資源の争奪など“嵐”の時代を前に、「議論よりもまず行動、現場で汗をかいて変える」と宣言。 賃上げをサプライチェーンの深い層まで届ける鍵は「適正取引と価格転嫁」。 物流では共同物流とDXで積載率と待機時間を改善し、ものづくりでは“暗黙知”をデータ化してフィジカルAIにつなげる構想も語った。電動化はエネルギー安全保障を起点にマルチパスウェイで進め、BEV普及には充電インフラと電池の循環が不可欠――。 自工会会長として初めての囲み取材から、日本のクルマ界が希望を現実に変える道筋が見えてきた。
文、写真:ベストカー編集局長T(アイキャッチ写真は記者から「2026年を象徴する一言を」と言われて「国際競争力」と書いた佐藤恒治新会長
【画像ギャラリー】関税・資源・物流…激動の2026年に「オールハンズで!!」自工会・佐藤恒治新会長が語った日本の勝ち筋(1枚)画像ギャラリー議論より行動、現場で変える覚悟
まず記者から「自工会会長就任にあたっての抱負」を問われた佐藤新会長は、「責任が非常に大きい。だからこそ、行動で返していく」、「議論するよりもまず行動して、現場で汗をかいて何かを変える」と語る。激動の時代に、業界団体が“調整役”で終わっては意味がない。決めたことを実行に移し、結果を出す、とのこと。
いまの日本自動車工業会は、副会長にホンダ三部敏宏社長、スズキ鈴木敏宏社長、いすゞ片山正則社長など、業界の重鎮が並ぶ。そうした中で比較的「若手」に括られる年齢の佐藤新会長は「なんだか皆さん、わたしにはモノが言いやすいんでしょうかね、いいことも悪いこともどんどん言ってくれるんですよ。だからその言われたことをどんどんやっていこうと思って」と熱く語った。
また記者たちのメモを取る手が早まったのが「関税」の話題。政府の尽力で“跳ね上がった税率”は「ある一定のところに収まった」としつつ、事業の前提として「厳しいことに変わりはない」と現実を直視する(米トランプ関税は一時27.5%まで引き上げられたが、日米交渉のすえ15%に落ち着いた)。さらなる努力を政府に求め、業界も「しっかりついていく」と語った。
逆輸入や認証制度の見直しの議論についても、狙いは「開かれた自由な貿易環境をつくること」だと強調。 ルールづくりでは国連法規WP29の枠組みに触れ、グローバル基準の統一に向けて努力していく考えを示した。
“7つの課題”は協調でスピードを上げる
自工会が掲げる「7つの課題」は、短期間で結果を出すための優先順位づけだという。 なかでもサプライチェーンと重要資源は、経済安全保障の観点から「短期的に結果を出さなきゃいけない課題が多い」とのこと。自工会会長としてのポイントは「競争と協調」のうち、協調領域をいかに広げるか。たとえば重要資源の安定調達のように、OEMだけでは把握できない場面をどう協調していくか。ティア(サプライチェーンにおける「階層」のこと)の深い取引先まで含め、業界として「見える化」し、スケールを取った連携で戦う必要があると説いた。
「一例として、自動車部品のうちいくつかのレアアースは、ティアの深いところで一部が繋がっていたりする。そういう知見をどう共有し、協調していくか。現場に寄り添って考えていきたい」と佐藤新社長。
物価高が続くなか、「賃上げについてどう考えるか。大手自動車メーカーだけでなく部品メーカーも含めて、二次受け、三次受け、四次受けまでの賃金上昇のためにできることはあるか?」との質問も飛んだ。佐藤会長の答えは明快だ。ズバリ、「適正取引と価格転嫁」。
サプライチェーン全体に投資しても、最初は「いくら水を流しても流れないこと」があった。だが継続していくことで環境が認知され、少しずつ動きが見えてくる。だからこそ、コスト構造の変化を価格に反映し、確実に実行する健全なビジネス環境をつくり、深い層までエネルギーを届ける――それに尽きるという。
同時に、賃上げを「何%アップか/満額回答か否か」の話に単純化することへの違和感も口にした。現代の待遇に関する労使交渉は、雇用・成長・分配のバランス、労働環境や人への投資まで含めた総合戦であり、単純に「ベアがいくら上がったか」だけで計るべきではない、と語る。そもそも労使交渉の本義は「労使が話し合うこと」にあるはずなのに、多くのメディアは話し合いの前に「どうなりますか?」と聞いてくる。いやいや話し合いはこれからですから、と答えるしかない。
また賃金の話は「大企業のベアアップ」の話に絞られがちだが、実際には日本には労働組合がない会社が「7割」存在する。こうした会社にはそもそも労使交渉が存在しない。そしてそういう会社にも賃上げの恩恵が受けられるようにするにはどうすべきか。こういった現実を踏まえなければ、日本の賃金の話は前に進まない、とのこと。だからこそ、適正取引を続け、末端まで栄養が届くようなコスト構造にしなければならないと。
ここらへんの話題への切れ味は豊田章男会長を思い出す。お見事。


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