日産を支えたカリスマデザイナー 中村史郞氏独占インタビュー

セレナに隠された“継続性”というデザインテーマ

 編集部 日産のデザイン部門のトップとして心がけていたことは?

 中村 私は一気に変革するタイプではなく、少しずつ、前からあるものをベースにして変えていこうという性格なんです。

 自分の趣味でデザインするつもりはまったくなく、今まで日産が築き上げてきたなかからいいものを引き出して、それを明確に、継続的にできるようにする。そこに重点を置いていました。

 私が日産にきてから各モデルが3世代目になるんですよ。だいたい5〜6年に一度モデルチェンジするから、2017年というのは3世代のデザインができることになるんです。

 継続性という意味でそれは重要なことで、例えばセレナ。あれも3代目、4代目、5代目(現行)とやりました。

 左から3代目セレナ、4代目セレナ、現行の5代目セレナ
左から3代目セレナ、4代目セレナ、現行の5代目セレナ

 セレナって、あまりデザイン的に評価してくれる人はいないんですけど、よく見ていただくと過去3世代のセレナはデザインテーマが同じなんですよ。

 窓のかたちやテールランプをあえて変えず、同じテーマでどれだけ進化できるかをやってみたんです。VWゴルフみたいなものですよね。

 まだ3世代になっていない車種もあると思われるかもしれませんが、私が仕事を終わらせたクルマは2年後、3年後に出てきますから、私のなかでは3世代目の方向性が打ち出せたと思っているんですね。

 2世代で終わっては経験を活かしきれない。4世代までやると同じことの繰り返しになってしまう。17年間で3世代というのはちょうどいいんです。

人が変わっても違う方向にいくことはない

 編集部 後任のアルフォンソ・アルバイサさんはしっかり任せられる人ですか?

 中村 もちろん。なぜ外国人をデザインのヘッドにするのか? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、彼は新入社員で日産に入った人(1988年)。

 日産のことを知り尽くしていますし、何よりもデザイナーとして優秀ですね。ここ数年の実績からみて、彼以上の人はいないんじゃないかと思います。

 後継者を育てるのも気を付けてやってきて、しっかり育ってくれて、間違いなく日産をさらによくしていってくれると思います。

 人が変わったからといって全然違う方向にいくなんてことはありません。ずっと一緒に考えてやってきましたからね。

 中村氏の後任となったアルバイザ氏(左)。<br>同氏は現行型のキューブ(右)のチーフデザイナーなどを歴任したデザイナーだ
中村氏の後任となったアルバイザ氏(左)。
同氏は現行型のキューブ(右)のチーフデザイナーなどを歴任したデザイナーだ

今後、車のデザインにはいっさいタッチしない

 編集部 今後はどうされるんですか?

 中村 まだはっきり決まっていませんけど、コンサルティングの会社みたいなものを作って、いろんなことをやっていくつもりで、日産に関することもやると思います。

 ただし、クルマのデザインに関してはいっさいタッチしません。それは次世代に100%任せます。それ以外にも私がお手伝いできることがあるはずなので、いろんなことをやっていこうと思っています。

 デザインする気力もなくなっていませんし、クルマやプロダクトデザインにこだわらず、なんでもやれることはやっていこうと思っています。

 編集部 見事な退任ですね。

 中村 私は小学生の頃からカーデザイナーになりたいという夢を持っていたんですが、想像を超えるものでしたね。

 本当に、本当に幸せなカーデザイナー人生でした。ゴーンさんがずっと見守ってくれたというのが大きいですね。そういう会社のあり方というのを作ってあるから、社長が替わっても僕がいなくなっても、そう簡単にこの17年間で作り上げたものが変わるとは思わないですね。

サイン色紙
サイン色紙

 中村史郞
1950年10月生まれ。武蔵野美術大学を卒業後1974年にいすゞに入社。1999年デザイン部門のヘッドとして日産に移籍。

 2001年に常務執行役員、2014年に専務執行役員、2006年からCCO(チーフクリエイティブオフィサー)兼務。愛車は初代シルビア、初代Z432、現行スカイライン、現行キューブ。日産在籍最後の日「クルマは最高!」と記す

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