自工会「クルマが先頭に」宣言!! 進まない水素普及のため「鶏と卵」問題に本気の目標設定

自工会「クルマが先頭に」宣言!! 進まない水素普及のため「鶏と卵」問題に本気の目標設定

 2026年5月21日、日本自動車工業会(JAMA)が都内で定例記者会見を開催した。今年度から本格始動させた「新7つの課題」の進捗を、会長・副会長が報告。「議論を繰り返すのではなく、実行に移す」という強い意志のもと、理事会でも全会一致で合意を確認したという。

 今回の会見で重点報告されたテーマは、①マルチパスウェイの社会実装(幹線輸送での水素トラック普及)、②サプライチェーン全体での競争力向上(共同物流実装に向けた標準プラットフォーム構築)、③人材基盤の強化(自動車産業カレンダーの見直し)の3項目。

 上記3項目に関してはいずれも「仕組みを動かす段階に入った」と佐藤恒治会長(トヨタ)が強調した。そのなかで今回の会見で最初に報告されたのが「①マルチパスウェイ」、なかでも「水素トラックの普及戦略」だ。「今後10年で大型水素トラック1500台・水素ステーション+30基・水素価格1000円/kg」という具体的な数値目標を掲げ、タスクフォースリーダーのトヨタを筆頭に、三菱ふそう・日野が連携し実務を担当。モビリティ産業が「ファーストペンギン」として日本の水素社会を切り拓くビジョンを示した。また、②共同物流では「2028年末をめどにOEM横断の物流協業を体系化する」という具体的ロードマップも提示された。本稿では今回の会見の核心を、水素戦略を中心に詳報する。

(※盛りだくさんなので「自動車カレンダー」と中東情勢に関しては別記事で紹介します)

文:ベストカー編集局長T、画像:日本自動車工業会

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「鶏と卵」の悪循環を打破──なぜ「商用トラック」から始めるのか

 水素普及の取り組みは、あのトヨタといえど失敗と学習の連続だった。2014年にトヨタは世界初の量産燃料電池車「MIRAI」を投入して以降、トヨタだけでなくホンダも精力的に取り組んできたにもかかわらず、水素ステーションの数は伸び悩み、FCV(燃料電池車)普及も思うように進んでこなかった。

 普及が進まない根本的な原因は「鶏と卵」の関係といえる。タスクフォースサブリーダーとして三菱ふそうトラック・バスから参加する安藤寛信氏はこう説明する。

「水素ステーションひとつを見たとき、まず来るクルマの台数が少ない、水素の消費量が少ない、となると、結果的に水素の値段が高くなる。水素が高いと利用者が増えない、利用者が増えないからステーションも増やせない──この悪循環を断ち切ることが最大の課題です」

記者会見会場で配布された「新7つの課題」の進捗状況を示す資料。こういう「実行させる仕組み」を作るの、いかにも佐藤会長っぽい
記者会見会場で配布された「新7つの課題」の進捗状況を示す資料。こういう「実行させる仕組み」を作るの、いかにも佐藤会長っぽい

 カーボンニュートラル社会を実現するために、大型トラックの動力確保は優先課題のひとつ。そして大型トラックにはBEVは向いていない。BEVとは別の動力源がどうしても必要なのだ。そしてその有力候補が「水素」であることは間違いない。

 だからこそ、この負の連鎖、悪循環を断ち切る方法を生み出す必要がある。この悪循環を打破するために、自工会が「まず我々が土台を整える」と名乗りをあげた、というのが本稿の趣旨。

 乗用車と違い、商用トラックはビジネス使用のため走行ルートが比較的固定されている。特定エリアに集中投資してユーザーを増やし、ステーション事業の採算を確立する戦略が商用車では実現しやすいのだ。

 実際、東京・平和島の水素ステーションでのモデルケース検証では、約80台の水素トラックが集中利用することで年間水素消費量が250tに達し、ステーションとして黒字化できるという試算が出ている(平和島ST予測値)。この「経済合理性が成り立つスモールサクセス」を各地で積み上げ、全国に拡大していくことが今回の戦略の根幹だ。

自工会が目指す水素社会の将来像。10年でここまで達成する、と示した
自工会が目指す水素社会の将来像。10年でここまで達成する、と示した

日本の「3つの勝ち筋」──水素製造・輸送・活用で世界をリードせよ

 なぜ日本が水素社会の実現をリードできるのか。それは日本が世界に誇る3つの水素関連技術の蓄積があるからだ。タスクフォースリーダーの木全隆憲氏(トヨタ)はこの「日本の勝ち筋」を整理した。

 まず「つくる」領域での①水電解技術。旭化成らが取り組む高効率な水素製造・安定稼働技術は、水素製造の世界市場獲得を視野に入れている。次に「はこぶ・ためる」領域での②液化水素関連技術。HySTRAやNEDO補助事業で実証が進む極低温での高効率運搬・貯蔵技術は、広範な輸入先からの水素調達を可能にし、エネルギー安全保障の観点からも重要だ。そして「つかう」領域での③FCセル・水素モビリティ。燃料電池車や水素エンジン車として世界に先駆けてマルチパスウェイを実行してきた実績は、市場で鍛えられた性能と耐久性という強みとなっている。

「この3つの技術を活かし、業界連携で水素需給を拡大し、産業競争力を強化していく」(木全氏)。米国・欧州・中国が国主導で水素産業基盤の強化と国際市場での覇権確立を急いでいるなか、「日本もまさに今、取り組みを加速させる必要がある」という強い危機感が今回の大胆な目標設定の背景にある。

福島⇔福岡「水素大動脈構想」──官民連携で日本列島を縦断

 今回の戦略の象徴的なプロジェクトが「水素大動脈構想」だ。福島から福岡に至る幹線輸送ルートを舞台に、水素トラックによる輸送網を官民連携で構築。沿線に水素ステーションを新設・整備し、国内の副生水素なども活用しながら、安価で安定的なエネルギー供給体制を整えていく計画だ。

 具体的な目標値は「今後10年で」という時間軸で提示された。大型トラック1500台相当(水素消費量7500t/年)、水素ステーション+30基、水素価格1000円/kg──という3つの数字だ。安藤氏はこれらについて「OEMがコミットする数字ではなく、全員で歩調とタイミングを合わせて実現していこうという目標値だ」と説明した。

 サブリーダーとして日野自動車から参加する大畑光一氏も「OEMとして水素大動脈構想をともに取り組んでいきたい。モビリティが先陣を担い、他のセクターへつなげていきたい」と意気込みを語った。車両メーカー・ステーション事業者・輸送事業者・荷主・国・自治体が一体となって「歯車を噛み合わせながら進める」ことが前提であり、全員が同じタイミングで一歩を踏み出すことが成功の条件だという。

「ファーストペンギン」から他産業へのバトンパス──価格低減の好循環を起こせ

 自動車産業が水素普及の「ファーストペンギン(最初に飛び込む勇者)」となることは、自動車のカーボンニュートラル社会達成にとどまらない。日本のエネルギー構造全体を変革するという大きなビジョンがある。

 佐藤恒治会長はこう語る。

「水素がエネルギーとして経済合理性あるビジネスモデルを確立することが最重要課題。しかし、モビリティ領域の水素使用量は他の産業セクターから見ると実は小さい。次の産業セクター──発電、鉄鋼、化学など、大きな使用量が見込める産業にどうやってバトンを渡すか。この2つを一括で考えなければならない」

 自動車産業が先行して水素の経済合理性を実証することで「水素はビジネスになる」という確信が他産業に広がる。水素消費量が増えれば価格は下がる。価格が下がれば代替エネルギーとしての利用が広まる──この好循環を自動車が先導するシナリオだ。

「水素普及は簡単なものではないと認識している。しかしながら、国を挙げて取り組まなければならない大変重要なテーマだ。関係するすべての皆様と力を合わせ、しっかりと推進してまいりたい」(木全隆憲氏)

「もうひとつの革命」共同物流──2028年末、OEM横断で物流の常識を変える

 今回の会見でもうひとつ重要な取り組みが具体性をもって発表された。「サプライチェーン全体での競争力向上」の柱として位置づけられる「共同物流実装に向けた標準プラットフォーム(PF)構築」だ。

 物流部会長の永野岳人氏(ホンダ)と副部会長の吉田晃朗氏(トヨタ)が説明した取り組みの背景には、日本が直面する3つの構造的課題がある。「自国調達可能な資源が少ない」「自然災害が多発する」「労働人口が減少する」──この三重苦のもとで、物流の在り方を抜本的に変えなければ、日本経済の持続的成長は望めないという強い危機感だ。

 目指す姿として提示されたのが「フィジカルインターネット(PI)構想」だ。通信網のインターネットが回線を共用化して効率を上げたように、物流でも倉庫・車両をネットワーク化し、荷主の枠を超えて積み合わせ・共同配送するシステムを構築しようというもの。欧州で2010年ごろに提唱され、日本でも経産省・国交省が2040年の実現を目標として掲げている。

まずトヨタとホンダが完成車物流で手を組む。空荷を減らし、CO2削減やトラックドライバー減少問題の解決に取り組む。出来ることからやる。実現できれば歴史的な事業になる
まずトヨタとホンダが完成車物流で手を組む。空荷を減らし、CO2削減やトラックドライバー減少問題の解決に取り組む。出来ることからやる。実現できれば歴史的な事業になる

「物流大国・日本となり、経済成長を物流が支えていくという大義を、OEMトップ間で共有できた」(吉田副部会長)

 具体策としてまず着手するのが「完成車物流での帰り便(逆物流)活用」だ。現状、各OEMが単独で完成車を輸送すると、帰り便が空車になるケースが約半数に上るという試算がある。この「空き」を他のOEMや用品・補修品輸送に活用することで、トラック稼働率を劇的に向上させる。すでにいすゞの帰り便を使ってトヨタの補給品を輸送する(25m連結トレーラー活用)先行事例もあり、OEM横断協業の実現可能性は実証されつつある。

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