■プラットフォームは日々進化・熟成させることが可能
「ひとつの車種を長く造り続ければ熟成が進む」という見方もあるが、それは車種そのものではなく、プラットフォームなどの話だ。
例えば三菱エクリプスクロスのプラットフォームは、2005年に発売された先代アウトランダーと共通だ。今では解析が十分に行われ、どこを補強すればいかなる効果が得られるのか、改良の仕方と効果が明確になった。
そこでエクリプスクロスは、構造用接着剤の効果的な使用などによって、ボディに効果的な補強を施した。足まわりも同様にチューニングされ、走行安定性と乗り心地のバランスが優れている。
またトヨタの新しいTNGAの考え方に基づくプラットフォームを新採用したプリウスは、先代型に比べて操舵感が正確になってよく曲がるが、危険回避時には後輪の接地性が甘い。前後のグリップバランスが前輪側に寄っている。
そこが同じプラットフォームを使うC-HRでは、重心を高めながらも優れた動きを見せる。開発者は「C-HRはプリウスよりも1年遅く発売され、ショックアブソーバーの銘柄も変わり、走りを熟成できた」という。
ただしそれでも古いプラットフォームを使えば、軽量化や電動化への対応、衝突安全性の向上では不利になる。
そして最先端の安全装備も、設計の古い車種は装着しにくい。エスティマはLサイズの上級ミニバンなのに、2016年6月のマイナーチェンジで追加装着された緊急自動ブレーキは、歩行者を検知できないトヨタセーフティセンスCであった。この時点でエスティマは発売から10年を経過しており、上級のトヨタセーフティセンスPは装着できなかった。
つまりフルモデルチェンジ周期の長期化、設計の古い車種が増えたことのメリットは、メーカーの経済的負担の軽減だけだ。あとは強いて挙げれば、売却時の価値を下げないことだろう。初度登録から7年を経過しても現行型の状態であれば、フルモデルチェンジを受けて先代型になった場合に比べて、好条件で売却しやすい。もっともこれは、その車種を新車で買うユーザーのメリットではない。
■国内市場が衰退してゆく負のスパイラルへ
逆に「欠点」は、すでに挙げているように膨大にある。
まずマイナーチェンジを施すだけでは、安全性から燃費、走行性能まで、抜本的な進化は期待できない。生物の進化に世代交代が必要なように、クルマの進化にも生まれ変わるフルモデルチェンジが不可欠だ。基本設計の古い車種が増えると、ユーザーは商品力の高いクルマを購入しにくくなってしまう。
特に今は、緊急自動ブレーキを中心として安全装備の普及が活発だ。交通事故はクルマにとって一番の欠点だから、安全装備は可能な限り充実させたい。
そうなると設計の古い安全装備が未熟な車種は、最初から購入の対象に入らない。これ以上の欠点はないだろう。
このような状態が続いたことで、自分の使い方や好みに合った機能を備え、価格も手頃で、なおかつ安心して使えるクルマは大幅に減ってしまった。
日本の自動車産業は、技術と販売の両面で世界のトップレベルだが、日本に住んでいるユーザーは、優れた商品を購入する意味では恩恵をほとんど受けていない。国内販売が30年前の70%以下まで落ち込んでいるのも納得できる。
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