三菱が久しぶりに登場させた新型車エクリプスクロス。なかなかの滑り出しを見せたものの、ずっと三菱の登録車で首位を独走してきたデリカD:5の勢いはそのままだ。
2018年4月の販売台数はエクリプスクロスが889台に対して、デリカD:5は530台。前年同月比88%という好調ぶり。しかし2007年デビューのデリカ、もういい加減に古さも隠せないし、特別仕様車も新しさは薄い。
また近年の不祥事などもありブランドイメージも正直高くない三菱。しかしなぜ消費者は10年以上に渡りデリカを支持してきたのか。その理由を自動車ライター永田恵一氏がズバッと解説。
文:永田恵一/写真:ベストカー編集部
■古さは感じれどクルマのコンセプトに消費者は惹かれている
三菱自動車のミドルミニバン「デリカD:5」は2007年登場と、登場から実に11年もの時間が経ちながら、未だに堅調に売れている。
デリカD:5の販売がどのくらい堅調なのかといえば、一部改良直後で供給が軌道に乗っていなかった思われる今年(2018年)4月が約500台、今年1月から4月の合計は約5000台と月平均の販売台数は1000台を超えるほどである。
月1000台という販売台数はミニバンというジャンルで言えば、先代プリウスをベースに5人乗りと7人乗り仕様を持つ2011年登場のプリウスαに匹敵する数字。
デリカD:5のデビューに近い2006年に登場したエスティマの場合、今年1月から4月までの販売台数は約3500台。デリカはエスティマの販売台数を大きく上回る。
販売店の数を見ると、プリウスαはトヨタ全ディーラーなので日本に5000店以上、エスティマはトヨタ店とカローラ店扱いなので2000店前後なのに対し、三菱のディーラーは約600店前後しかない。
このことも踏まえると、デリカD:5の堅調な販売には感動すら覚える。松坂大輔選手のようなベテラン選手の大活躍のようである。
では「デリカD:5がなぜ堅調に売れるのか?」を考えてみる。
最大の理由は、210mm(4WDの場合)という余裕がある最低地上高や、三菱らしい高い4WD性能を備え、アウトドアにもよく似合う唯一無二のSUVミニバンというキャラクターを持つからだろう。
しかし、いくらコンセプトが優れていても、デリカD:5は登場から10年以上が経つだけにウィークポイントも多い。
・先行車追従型のアダプティブクルーズコントロールや車線逸脱警報、自動ブレーキといった運転支援システム、安全装備がない
・車重が重いこともあり、ガソリン車は燃費が良くない。その対応として追加されたディーゼル車は燃費は及第点なものの、騒音は特に車外騒音がうるさい
・好みによる部分も大きいにせよ、内外装ともにデザインの古さは否めない
といったことが即座に浮かぶ。
しかし、逆に考えれば決定的に悪いところはこのくらいで、美点も多い。
・ディーゼル車の設定で燃料コストが下がって乗れるようになり、ディーゼル車らしい騒音も「デリカらしさ」を作っている
・デザインの古さもこれだけ時間が経つとデリカらしいともいえる
・2列目、3列目シートの座面の座面が厚い部類なので、座り心地が良くパッセンジャーは快適
・スキーを意識したシャモニー、オレンジのアクセントが目立つアクティブギア、最近追加されたジャスパーといった特別仕様車が個性的
こんな感じにポジティブに捉えることもできる。
■ノア&ヴォクに真正面から対抗できる理由は「個性」だ
カタログをよく見るとベーシックグレードは2WDなら240万8400円、4WDでも285万5520円と、ヴォクシー三兄弟&セレナ&ステップワゴンとそう変わらない価格だ。
そのため前述のウィークポイントに目をつぶれるなら、「似た値段ならデリカD:5の方が面白そう、街に溢れてなくていい」という考えをする層も、多くにはないにせよ一定数いるのだとは思う。
そんな風にデリカD:5を見ていると「ここ10年のクルマの進歩というのは燃費と安全性がほとんどだったのかもしれない」とも思ってしまう。
まとめると、日本車ならジムニーやロードスターが該当すると思うが、デリカD:5も含めて飛び抜けて強いキャラクターを持つクルマであれば、直接的なライバルは少ない。
新しいとか古いはそれほど関係なく、そのクルマを買うしかないということなのだろう。
考えてみるとジムニーやロードスターに比べれば、デリカD:5の成り立ちは比較的簡易である。
それでもクロスオーバー的なミニバンが未だに出てこないというのは、ニッチな市場であり、デリカが長年に掛けて牙城を崩すのは難しいという証明ともいえる。
それだけにデリカの持つブランド力は今の三菱にとって大きな財産だ。デリカD:5の今後に関しては今年中に現行型のままビッグマイナーチェンジされ、その後アライアンスを結ぶ日産車ベースでフルモデルチェンジされることが予想されている。
そういった状況下でベースは三菱でなくとも、アウトドアににも便利なプラグインハイブリッドのような三菱らしさ、やワイルドなキャラクターやタフさといった「デリカらしさ」はコアなファンのためにも失わないで欲しいところだ。
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