フラッグシップタイヤ『ADVAN』 はなぜ絶大な信頼を獲得したのか?【後編】

■ベントレー、アウディ、メルセデスに続々採用

 この『ADVAN Sport V103』は我々のようなクルマ好きにとってのADVANのイメージをガラリと変えた象徴的なタイヤだったのだ。

 そう、それまでのモータースポーツを主軸としたバリバリのスポーツタイヤとしての顔だけではない、という新しいADVANの姿である。911のみならずSUVのカイエンにも新車装着タイヤとしての技術承認を受けたということは、世界が認めるスポーツカーメーカーに認められた「究極のプレミアムスポーツタイヤ」という顔を世界にアピールできる快挙である。

ADVANといえばサーキット、モータースポーツというイメージが色濃かったし、モータースポーツから技術開発がフィードバックされたことで高いスポーツ性能を磨き上げたのだ
ADVANといえばサーキット、モータースポーツというイメージが色濃かったし、モータースポーツから技術開発がフィードバックされたことで高いスポーツ性能を磨き上げたのだ

 ところが2005年以降、『ADVAN  Sport  V103』はベントレーコンチネンタルGT、ポルシェカイエン、アウディS8、メルセデスAMG C63などのプレミアムハイパフォーマンスサルーンやSUVの新車装着タイヤとして次々と採用されていくのだ。ポルシェ911シリーズ以上に厳しい静粛性や乗り心地性能が要求されたことは想像に難くない。

 高い操縦安定性能は“当たり前”の性能として、さらに高速でのウェット性能なども高い次元でのバランスが要求されるのが欧州プレミアムカーの新車装着タイヤだ。

 その後、現在の主力である『ADVAN Sport V105』 はポルシェの他、メルセデス・ベンツSクラスやCLSといったプレミアムサルーンに新車装着されていく。さらに2018年にはBMW X3、X4,X5といったSUVにも新車装着タイヤとして承認された。スポーツカーだけではなく、プレミアムサルーンやプレミアムSUVにも適応する性能を証明した。

現在新車装着タイヤとして承認を受けているBMW X3。前編ではX3 xDrive 30eにランフラット仕様の『ADVAN Sport V105 ★RSC Z・P・S』を履いてその性能を再確認した
現在新車装着タイヤとして承認を受けているBMW X3。前編ではX3 xDrive 30eにランフラット仕様の『ADVAN Sport V105 ★RSC Z・P・S』を履いてその性能を再確認した

 はたしてそこにはどのような開発の苦労があるのだろうか? そもそも新車装着タイヤの開発とはどのようなものなのだろうか? 現在、最新の『ADVAN  Sport  V107』の新車装着(OE)開発を担当する横浜ゴムタイヤ製品開発本部 タイヤ第二設計部の設計リーダー石黒和也氏に興味津々、話を伺った。

グループリーダーとしてADVAN Sport V107の新車装着開発を担当する横浜ゴムタイヤ製品開発本部の石黒和也氏
グループリーダーとしてADVAN Sport V107の新車装着開発を担当する横浜ゴムタイヤ製品開発本部の石黒和也氏

■ドイツメーカーの開発要求は厳しい!!

梅木智晴(ベストカー編集委員)(以下「梅木)「石黒さん、タイヤ設計部の仕事とはどのようなものなのでしょう?」

横浜ゴムタイヤ製品開発本部 石黒和也氏(以下「石黒」)「一般的なリプレイス用タイヤですと、製品企画部門から『これこれこのようなコンセプトの商品を市場に出したい』という新開発タイヤの仕様やコンセプト、想定されるお客様などの要件が提示されます」

梅木「例えば、”燃費が良くて雨にも強いタイヤ”……みたいな?」

石黒「それ『BluEarth』ですね! ……まあ、そういうことです」

梅木「タイヤの開発というと、トレッドコンパウンドやプロファイル、トレッドデザインなど、多岐にわたる技術的な要素がありますよね」

石黒「設計部としてまず取り組むのが、企画に沿ったタイヤを作るための大枠を固めることです。求められる性能要件を満たすためには、今社内にあるどのような技術を使っていけばいいのか? 例えばトレッドコンパウンドはどれが使えるのか? 現有技術で足りなければ、各専門の開発部門に、例えば『もっと転がり抵抗の小さくできるゴムを開発してほしい』とかです」

梅木「石黒さんのお仕事は開発全体を見渡して、指揮棒を振って開発コンセプトに沿ったタイヤを商品としてまとめていく、ということですね」

石黒「ものすごく簡単に言ってしまえばそういうことになります」

梅木「『ADVAN  Sport』の新車装着タイヤの開発というと、ものすごい重責かと思うのですが」

石黒「それはどのような商品の設計担当でも同じ気持ちです。とはいえ、しかし、やはり弊社のフラッグシップブランドであるADVANの、しかもさらにその中でも特に大切な『ADVAN  Sport』の開発を任されたということに対する思いはあります。感じるプレッシャーはものすごいです」

梅木「いやいや、石黒さん、エースじゃないですか!」

石黒「そんなふうに思ったことはありませんが、重責であることは自覚していますが、それとともにモチベーションは昂まります。やってやろう!! という気持ちは大きいです」

梅木「ADVAN Sport V107はまだ一般市販用(リプレイスタイヤ)は発売されていませんよね?」

石黒「昨年4月にメルセデスAMG GLE53、GLS63用、BMW  X3、X4などに向けた新車装着が開始したところです。つい先日ですが、今年の4月に入ってBMW  iX3、メルセデスAMG  GLB35 4MATICの新車装着が始まりました。さらにはまだ言えませんが、とあるハイパフォーマンス車への新車装着発表も控えています」

梅木「リプレイス用はまだ先になる?」

石黒「もちろん予定はありますが、今現在も他社の新車装着用の開発が進行中なんです」

梅木「同じ『ADVAN Sport V107』と名前がついていても、BMW用とベンツ用では細部が違うんですか?」

石黒「OE(Original Equipment/新車装着タイヤ)ごとに特色がありますが、車種によっても、要求性能が異なるので、それぞれ専用設計しています。最近の開発では、ベンツのSUV系の車種で、操縦安定性をしっかり出しながら転倒限界性能をクリアさせるのに苦労しました」

梅木「それがベンツ伝統のスタビリティにつながるのですね。BMWはどうですか?」

石黒「BMWだと、例えばX3用とEVのiX3用では違います」

梅木「えっ? 例えば何が違うんでしょう?」

石黒「iX3はEVなのでエンジン音がありません。走るとタイヤ由来の音が気になりやすい。もっと音を小さくして欲しいという要求は厳しかったです」

梅木「ADVAN Sport V105でも結構静かに感じましたけどね」

石黒「さらにEVということで航続距離を伸ばしたい」

梅木「低転がり抵抗ですね」

石黒「はい。実は、自社内でもトップレベルの低転がり抵抗を実現しています」

梅木「ADVAN  Sportで? それは凄い‼︎ 具体的にはどこを変えて対応するのですか?」

石黒「音であればトレッドパターンのピッチ配列などです。サイズによっても異なります。これまでの知見からいくつかの配列パターンを持っているのですが、それで対応しきれなければ、さらにシミュレーションで新パターンを作って、実際にテストを繰り返して作り込んでいきます」

梅木「転がり抵抗は?」

石黒「iX3では特に厳しい性能を求めたので、ゴムそのものがまったくの新開発です」

梅木「そこまでやる!」

石黒「必要ならば」

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