フラッグシップタイヤ『ADVAN』 はなぜ絶大な信頼を獲得したのか?【後編】

■1周走ると、もう勘弁してくれ……と

梅木「やはりBMWやベンツのタイヤ開発は厳しいですか?」

石黒「基本となる操安性能の要求要件がそもそも高いです。アウトバーンがある以上、250km/hレベルの巡行性能は当たり前ですから。また、高速での耐ハイドロプレーニング性能もシビアです。最近では、これらに加えて騒音に対する要求性能が厳しいです。欧州の通過騒音規制が厳しくなっているのが要因でしょう」

梅木「ニュルブルクリンクも相当走り込む?」

石黒「BMWもベンツも、もちろんポルシェも、そして弊社もニュルブルクリンク周辺にテスト基地を構えて、新車開発にニュルはマストです」

ドイツ、ニュルブルクリンク近傍にある横浜ゴムのテストセンター。ここを拠点に、欧州自動車メーカーとの新車装着タイヤの開発テストを実施している
ドイツ、ニュルブルクリンク近傍にある横浜ゴムのテストセンター。ここを拠点に、欧州自動車メーカーとの新車装着タイヤの開発テストを実施している

梅木「当然、OEタイヤもニュルを走り込むということですね」

石黒「タイヤと新車開発は同時進行ですから」

梅木「やはり、相当厳しい?」

石黒「ニュルですとラップタイムを計測したり、操縦性の評価が厳しいのは当然なんですが、それと同時に耐久性も厳しく評価されます」

梅木「前提として、早く走れて安定しているというのは当然だ、ということですね」

石黒「ニュルを1周走ってトレッドがボロボロというのではお話になりませんね、というところから始まります。新車装着タイヤの開発は、この耐久性との両立がとても難しい」

梅木「しかも、静粛性や乗り心地の要求用件も高いんですよね」

石黒「もちろん、車種によって要求用件は違ってくるのですが、プレミアムサルーンなどではすべてを高次元でバランスさせることが求められます」

梅木「石黒さんは、高頻度でニュルに詰める?」

石黒「開発の重要な局面では現地に行って直接評価ドライバーとやり取りをします」

梅木「横にも乗る?」

石黒「ニュルをガンガン走りながら、評価ドライバーは要所要所で『今のこの挙動がダメ』だとかを指摘してきます」

梅木「きつそうですね」

石黒「1周走ると、もう勘弁してくれ……と。でも、やはり直接挙動を体感しながらダメだしされるとわかりやすく、素早く対応策を提案できます」

ニュルブルクリンク北コースは1周20㎞以上という長距離で、自然の地形を活かした山岳路のようなサーキット。アップダウンが激しく、荒れた路面も多く、200㎞/h以上で曲がる超高速コーナーなどもあり、過酷な入力がタイヤにも、車両本体にも加わる
ニュルブルクリンク北コースは1周20㎞以上という長距離で、自然の地形を活かした山岳路のようなサーキット。アップダウンが激しく、荒れた路面も多く、200㎞/h以上で曲がる超高速コーナーなどもあり、過酷な入力がタイヤにも、車両本体にも加わる

■ADVAN Sport V107はドライ性能もウェット性能も引き上げた

梅木「V107はV105からどの部分が特に進化しているのでしょう?」

石黒「基本コンセプトは変わりませんが、新車装着メーカーの要求用件に対応していく中で、どうしても根本的に変えなければならない箇所が増えて、トレッドパターンにも変化の必要が生じました」

梅木「正常進化ということですね」

石黒「はい。具体的にはウェットです。ドライ性能は維持しながら高速走行時のウェット性能をもっと高めたい、と」

梅木「具体的には?」

石黒「イン側2本目のリブに横溝を刻んでいるのが大きな違いです。路面との追従性が高まり、ウェット性能が高まっています」

梅木「ドライ性能とのせめぎあいですね」

石黒「V107では役割分担を明確にしました。アウト側でドライ操安をしっかりと出していき、イン側はウェット性能を高めていく。しっかりと接地面を出してウェットでも路面にコンタクトさせていく」

ADVAN Sport V107。イン側リブに刻まれたスリット状の溝がウェット性能に効くのだという。左右非対称パターンで、アウト側はドライ操縦安定性を高める構造
ADVAN Sport V107。イン側リブに刻まれたスリット状の溝がウェット性能に効くのだという。左右非対称パターンで、アウト側はドライ操縦安定性を高める構造

梅木「ただ、ウェットを高めていくと音が厳しくなりませんか?」

石黒「そのとおりです。先にお話ししたように、欧州は通過騒音の規制が厳しくなっています。さらにEVの普及で室内の音がよりシビアになっています」

梅木「だからこそ、各自動車メーカーとの共同開発が重要になる」

石黒「同じV107と名前がついていても、車種によって微妙に溝の配置や深さなどをチューニングしています。これはV105でも同様です」

梅木「まさに専用設計!!」

石黒「プロファイルの違いもあります。静粛性の要求が高い場合にはラウンドプロファイルにするといった対応もあります」

梅木「それでも『ADVAN Sport』としての基本性能は譲れませんよね?」

石黒「それは絶対!! もっとも、ADVAN Sportが新車装着を目指しているクルマは、それ以上のトータルバランスを求めているので、結果的に自動車メーカーの要求要件に応えていくことで、トータル性能が引き上げられていきます」

梅木「新車装着タイヤを開発することで、得られる知見は大きいですね」

石黒「はい、会社として開発技術のレベルは上がっていきますね」

梅木「リプレイス用は?」

石黒「V107はまだリプレイス用はありませんが、V105の場合ですと、こうした新車装着用の開発から得た知見を活かして、トータルバランス性を重視したものになっています」

梅木「V107のリプレイス用、楽しみです!」

■ADVANはスポーツタイヤからプレミアムタイヤへと進化

 80年代、ポルシェへの技術承認取得、新車装着タイヤから始まったADVANの新たな進化は、2000年代に入ってさらに、ハイパフォーマンスプレミアムカーの新車装着タイヤを目指すことで加速した。ハイグリップ、高い操縦性を徹底的に追求するタイヤから、静粛性やウェット性能、低転がり性能やさらにロングライフ性能までを高次元でバランスさせるプレミアムタイヤとしての進化である。

 その最初の回答が2005年に登場した『ADVAN Sport V103』であり、これをさらに進化させて2013年に登場した『ADVAN Sport V105』 だ。

 その一方で2009年には『ADVAN』 ブランドを冠したプレミアムコンフォートタイヤ『ADVAN dB』 が加わっている。これもまた、ADVANブランドが目指すグローバルでのプレミアムブランドに対する回答のひとつに他ならない。

 ADVANブランドとしての基本となるドライグリップや操縦性をしっかりと確保しながら、静粛性や乗り心地も高める。コンフォート要素も極めたハイパフォーマンス性能というのも、ADVANの目指すフラッグシップブランドとしてのありかたなのだ。

 ADVAN Sportをフラッグシップとして、世界で存在感をアピールするADVANブランドは、さらなる進化を続けている。

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