これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、時代に翻弄された世界戦略クーペ、MX-6を取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/マツダ
バブル景気に押されて誕生した6兄弟の一角
かつてマツダはバブル景気の勢いに乗って、「B-10計画」と呼ばれる国内での販売台数を倍増させるプランを提唱し、当時3つあった販売チャネルをトヨタや日産に並ぶ5チャネル体制することを明言した。
1989年に高級車ブランドである「ユーノス」と、軽自動車をメインに販売する「オートザム」を設立。さらに1991年には、マツダオートを「アンフィニ」へと名称変更し、こちらも高級車専門ブランドとした。
国内に5つの販売チャンネルを設けたうえに新型車を増加させたことでイケイケと思われたが、この戦略はマツダというメーカーのブランドイメージに大きな混乱を招いてしまうこととなる。
結果として、販売チャンネルごとに専売車種を設定することで生じた研究開発費の高騰にバブル崩壊による景気低迷が追い打ちをかけ、5チャンネル体制は大失敗に終わった。その後マツダは経営難に陥り、長い冬の時代を過ごすことになる。
後にマツダの黒歴史(?)と揶揄される多チャンネル化を象徴する存在として語られるのが、カペラに代わって1991年に登場した3ナンバーサイズのセダン「クロノス」である。
クロノスをベースにユーノス500、アンフィニMS-6、オートザム・クレフ、そしてフォード・テルスターという派生車種が生まれ、今回ピックアップする「MX-6」を含めた6車種が「クロノス6兄弟」と呼ばれた。
クロノスはカペラ(セダン)の後継車だったが、MX-6はクーペ版であるカペラC2の後継に位置づけられた。先に登場したクロノスとシャシーを共用した2ドアクーペという点は、前身となるカペラ&カペラC2の関係と同様だ。
ただしカペラC2がセダンのカペラのイメージとオーバーラップする部分が多いのに対し、MX-6では車名だけでなく、外装でもベースとなるクロノスの雰囲気はほとんど感じられなかった。
クロノスをベースにしながら贅沢な作りでクーペ化を図る
外装デザインに関して、MX-6はセダンのクロノスとは異なり、伸びやかで柔らかな曲線と連続する面で構成されたフォルムを特徴とするなど、専用の作り込みがなされていた。グリルレスのフロントまわりや薄型の異形ヘッドランプもクロノスとは明らかに異なるものとなる。
2ドアクーペらしくルーフを低く構え、リアエンドまでなだらかに傾斜したスタイルが特徴で、当時としてはワイドな全幅によって醸し出される躍動感とひとクラス上の優美さによって本格的なスペシャリティカーに仕上げられていた。
ボディサイズではホイールベースが2610mmと共通であることは、シャシーを共用した兄弟車であることを意識させる要素だが、全長が4610mm、全幅1750mm、全高は1310mmで、クロノスよりも全長と全幅がやや小さく、全高が低く設定される。また乗車定員が4名なのもセダンとの違いを明確に主張するポイントのひとつと言える。
車内の雰囲気もスペシャルティ感に溢れており、曲線を多用した運転席まわりの造形は包まれ感がともなって、クーペモデルらしいパーソナル感を存分に味わえた。シートはサイドサポートを強めたデザインのGTタイプシートを採用。乗員の身体をしっかりと支えるたっぷりしたサイズで、座り心地がいいうえにスポーティな走りにおいても高いホールド性を発揮する。
スペシャリティカーらしく、前席2人のための快適な空間づくりに徹したように思えるが、後席の快適性に不満はない。4人乗りとあってリアシートはセパレートされた形状となり、足もとスペースのゆとりも功を奏して心地よく座れる。しかも6対4の分割可倒式となっているため、シートバックを倒せばトランクルームと繋がって長尺物が積載できた。






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