今の国内販売の1位は、暦年や年度で見ると一貫してN-BOXだ。2013年/2015年/2016年は軽自動車の販売1位で、2017~2019年には、小型&普通車も含めた国内販売の総合1位になった。
そして2017年9月以降は、月別販売ランキングでも、2年以上にわたり一貫して1位を取り続けている。年間や年度だけでなく、月別の1位も譲らない販売実績は凄い。
ところが2019年11月は、この安定した販売ランキングに変動があった。国内販売の総合1位がタントになり、N-BOXは2位に下がったからだ。
今わかっている範囲では、タントのトップは2019年11月のみだ。これでN-BOXの優位が揺らぐわけではないが、タントが注目を集めることは間違いない。
タントはニーズに合わせていろいろなグレードを用意しているが、最も買い得感が高いのはどれなのか? コストパフォーマンから考察していく。
文:渡辺陽一郎/写真:DAIHATSU、HONDA、平野学、奥隅圭之
11月にN-BOXを抜いて軽販売トップに躍進!!

ダイハツの販売店に人気の理由を問い合わせると、「タントは最近になって生産と納車が軌道に乗ってきた」という。
現行タントは2019年7月に発売され、届け出台数は8月が1万6838台、9月は2万1858台、10月は台風の影響で1万1071台に減り、11月に2万1096台で総合1位となった。11月の2位はN-BOXで1万8806台だ。
この推移を見ると、10月が9月に比べて約半減した反動で、11月が増えた可能性もある。「タントが好調に売れて、N-BOXはユーザーを奪われた」と判断するのは早計だが、タントが好調に売れる資質を備えていることは確かだろう。
軽自動車の売れ方はスポーツカーとは正反対
また軽自動車やコンパクトカーなど、実用性の高い車種は、人気車でもフルモデルチェンジを行った直後に売れ行きが急増することはない。
ユーザーの買い方が冷静で、現在使っているクルマの車検期間が満了するなど、購入に最適なタイミングを見計らって乗り替えるからだ。
従って販売台数が急増しない代わりに、商品力の高い車種は、発売から時間を経過しても安定的に売れ続ける。今の販売ランキングの上位車種は、すべて実用指向だから、時間を経過しても順位の入れ替わりは少ない。

N-BOXはその代表だ。現行型の発売は2017年だから、2016年や2017年の前半はモデル末期だったが、売れ行きを下げていない。
2019年7月に発売されたタントも同様で、買い得な特別仕様車のVSシリーズを設定したこともあり、2019年1~6月の国内販売ランキング順位は、モデル末期なのにN-BOXとスペーシアに次ぐ総合3位だった。
ちなみにかつて人気の高かった時代のスポーツカーは、発売直後にユーザーが購買意欲を刺激されて売れ行きを伸ばし、需要が一巡すると急速に下降した。軽自動車の売れ方は、クルマの性格と同様、スポーツカーとは正反対だ。
コンフォータブルパックが無料!?

そこで改めて、好調な売れ行きが注目されるタントの買い得グレードを考えてみたい。2019年12月23日には、新グレードのセレクションシリーズも加わり、選ぶべきグレードが変化した可能性もある。
タントには標準ボディとエアロパーツを装着したカスタムという2つのタイプがあり、エンジンはこの両タイプに、自然吸気のノーマルタイプとターボを設定している。
機能や装備に対して価格の割安な買い得グレードを選ぶなら、12月に追加されたXセレクションを推奨する。

Xセレクションは、標準ボディにノーマルエンジンを搭載しており、装備は従来のXをベースに、コンフォータブルパックを加えた。
その内容は、運転席の上下調節機能、チルトステアリング、運転席と助手席のシートヒーター、360度スーパーUVカットガラス、格納式シートバックテーブルなど多岐にわたる。
コンフォータブルパックの価格は3万8500円だが、Xセレクションは149万500円だから、ベースグレードのXと同額だ。つまりコンフォータブルパックが無料で装着されている。
軽自動車の価格設定は特殊
軽自動車は価格競争が激しく、ライバル車を横目で見ながら開発を進め、価格も決める。従って後から発売された車種ほど、価格が割安になっていく。タントも同様で、価格をほとんど高めずに安全装備などを充実させた。
この影響で現行タントは、先代タントが標準装着していた運転席の上下調節機能とチルトステアリングを前述のセットオプションに変更した。

開発者に理由を尋ねると、「標準装着することを繰り返し検討したが、どうしてもコストが合わずオプションにした」と述べている。
軽自動車の場合、機能や装備の結果として価格が決まるのではない。最初から逸脱できない価格が決められていて、そこに機能と装備を合わせるのだ。
ただし今は安全装備の水準が急速に高まり、ライバル車に見劣りすれば販売競争に負ける。装備が充実したことで価格を高めても、販売競争に負けてしまう。
その結果、苦渋の選択として、現行タントは運転席の上下調節機能とチルトステアリングをオプションに変更した。通常であれば不自然なこの装備変更は、軽自動車が高コストな機能や装備を採用しながら価格を下げられない買い得感を突き詰めた裏返しなのだ。

Xセレクションはこの苦渋の選択を飲み込み、コンフォータブルパックを無料装着した。これは発売後数か月を経過しながら、届け出台数がN-BOXを超えられない結果、買い得グレードとして計画された。従って推奨度が最も高い。
Xセレクションで従来の不利を払拭
タントXセレクションをライバルのN-BOX G・Lホンダセンシング(154万3300円)と比べると、タントXセレクションには車間距離を自動調節できるクルーズコントロールなどの運転支援機能は装着されないが、サイド&カーテンエアバッグやシートバックテーブルを備えて価格は5万2800円安い。
N-BOX G・Lホンダセンシングも相当に買い得だから、装備と価格の勝負にタントXセレクションが勝ったとはいえないが、従来の不利は払拭されている。前述のようにN-BOXは安定的に売れるだけあって、高機能で価格も割安だ。そこに対抗するのは容易ではない。

いっぽう、上級シリーズのタントカスタムを買うのであれば、ターボエンジンを搭載したカスタムRSセレクションを選ぶ。これも新グレードのセレクションシリーズだ。
Xセレクションのコンフォータブルパックに加えて、カスタムRSにオプション設定される車間距離を自動調節できるクルーズコントロールなどの運転支援機能、LEDフォグランプなどを加えた。
カスタムRSセレクションの価格は185万3500円で、カスタムRSに比べると7万1500円高いが、セットオプション価格にして総額11万9900円の装備が加わるから、カスタムRSよりは4万8400円割安だ。最上級の軽自動車を求めるユーザーにはメリットがある。

セレクションシリーズはタントをたくさん売るダイハツの意思表示
以上のようにタントの買い得グレードは標準ボディのXセレクション(149万500円)、高い満足度を求める個性派グレードはカスタムRSセレクション(185万3500円)になる。
販売店に納期を尋ねると「セレクションシリーズは、メーカーも売れ筋になると考えているから生産台数も増やしている。従って契約から1カ月で納車できる。
逆に以前から設定されているセレクションシリーズ以外のグレードに、メーカーオプションをたくさん装着すると、納期が2カ月に延びることも考えられる」という。

つまりセレクションシリーズは、予めメーカーオプション装備を標準装着しているから、ユーザーがオプションを注文することに伴う受発注や生産の面倒を避けられる。効率が高いから、価格も割安にできた。
セレクションシリーズは、今後タントをたくさん売る意気込みの表現でもあるわけだ。果たしてタントは、年間販売ランキングのトップをN-BOXから奪えるだろうか。
