これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、今も伝説として語り継がれる“4ドアGT-R”、「スカイラインGT-R オーテックバージョン 40th ANNIVERSARY」を取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
スカイライン40周年が生んだもうひとつのGT-R
1997年(平成9年)、スカイラインが誕生から40周年という節目を迎えた。日産はこの記念すべき年に、スカイラインが築いてきた技術・哲学・情熱を再定義するためのプロジェクトを始動させる。
その中心に据えられたのは、GT-Rを象徴とする高性能イメージの継承と、新たな世代に向けたブランド価値の再構築であった。そこで開発の中核を担ったのが、日産の特装車部門として高性能モデルや限定車を数多く手掛けてきたオーテックジャパンである。
オーテックに託された使命は、GT-Rの卓越したパフォーマンスをベースに、より成熟したユーザー層にも響く「4ドアのGT-R」を具現化することだった。こうして誕生したのが、「スカイラインGT-R オーテックバージョン 40th ANNIVERSARY(以下、GT-R オーテックバージョン)」である。
コンセプトは「大人のための国内最高性能4ドアスポーツセダン」という明快なものだった。2ドアGT-Rの走行性能を犠牲にすることなく、4ドアセダンとしての快適性と落ち着きを両立するという、きわめて挑戦的なテーマに真正面から取り組んだ。
単なる4ドアボディの流用ではなく、ブリスターフェンダー形状を再現するためにリアドアとフェンダーを新たに設計・製作。さらにリアシートも専用バケットタイプとするなど、徹底した専用設計によってGT-RのDNAを持つセダンが完成する。
GT-R オーテックバージョンは、単なる記念モデルではなく、スカイライン40年の歩みとGT-Rの哲学を融合させた、もうひとつのGT-Rとしてブランド史にその名を刻んだ。
エクステリアは、GT-Rとしての存在感と性能を視覚的に表現することを目的にデザインされた。その造形には、機能が形を決めるというGT-Rに受け継がれてきた設計思想と、スカイライン40周年という節目にふさわしい「力強さと精緻さの調和」を体現したデザイナーの意図が息づいている。
フロントまわりはBCNR33型GT-Rをベースにしながら、より落ち着きと品格を重視した造形へとリファイン。開口部形状やリップ部の厚みを最適化することで冷却効率と空力性能を両立し、2ドアより控えめなデザインとして、セダンとしての落ち着きを演出した。力強さを維持しながらも、過度なアグレッシブさを抑えて「大人のGT-R」というテーマを体現している。
また、4ドア化に伴い、リアドアとリアブリスターフェンダーは専用品として新たに製作された。デザイナーたちは2ドアGT-Rの後輪まわりの張り出しを忠実に再現するため、徹底した検討を重ねることとなった。
リアフェンダーの立ち上がりから絞りにかけてのラインは、リアタイヤに向かって力強く収束し、静止していても駆動力を感じさせるダイナミズムを表現している。また、リアスポイラーをあえて廃したことで、全体として清潔感と落ち着きを備えたリアビューとした点も、大人のGT-R像を造形で示す要素となっている。
サイドシルプロテクターおよびリアサイドプロテクターも専用品とし、フロントからリアへと流れる一体感のあるシルエットを実現。さらに走行時の整流効果にも配慮されるなど、デザインと機能が高度に融合した構成となっている。
結果として、フォルム全体は4ドアセダンでありながらGT-RのDNAを確かに感じさせるスタンスを実現。高性能を声高に主張するのではなく、内に秘めた力を静かに語る造形は単なる派生車の域を超え、GT-Rの造形哲学を再定義したひとつの作品といえる。




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