いすゞビークロスの軌跡 時代を25年先取りしすぎた最先端SUV


 今や世界的なSUVブーム真っ只中。SUVもクロスオーバーが基本となり、オンでもオフでもシーンを選ばないだけでなく、スポーツセダン顔負けの走りが楽しめるモデルまで現れるようになった。

 しかし、ほんの一昔前まで、「スポーティなSUV」なんて存在しなかった。そのニーズにいち早く気づいていたのは、SUVにもロータスチューンを取り入れるなど、走りにも拘っていたいすゞであった。

 そんないすゞが今から約25年前に発表した、スポーツSUVの先駆け「ビークロス」。当時は「珍車」と言われていたこのクルマの辿った数奇な運命を紹介したい。

文:大音安弘 写真:ISUZU


■SUVの走りにこだわったいすゞの意欲作

1993年の東京モーターショーに出品されたプロトタイプ

 1993年の東京モーターショーで、いすゞが1台の新しいSUVのコンセプトカーを出展した。その名は“VehiCROSS(ヴィークロス)”。従来のSUVの概念を大きく覆すスポーティな3ドアのスタリングが与えられていた。

 チーフデザイナーを務めたのは、のちに日産自動車のデザイン本部長となる中村史郎氏。乗り心地を含めた高速走行性と悪路走破性を高次元で融合させることを目指し、コンセプト段階では、ジェミニのプラットフォームをベースに開発されたクロスオーバーSUVだった。

 出展されたコンセプトカーは、カーボン素材とアルミを取り入れた軽量なボディ構造に1.6L直列4気筒直噴エンジンにスーパーチャージャーを加えた新しいものを搭載するなど、軽快な走りを目指していたことが感じられる。

 モーターショー会場での来場者の反響が高かったことを受け、すでにSUV以外はOEMが基本となり、どんどん規模が縮小されていたいすゞの乗用車部門は、再起をかけてこのモデルの市販化に乗り出した。

■そのままの姿で世に出たコンセプトカー

1999年2月に、国内販売終了に際して用意された「175リミテッドエディション」。ビークロスの開発コードに由来する「175」台の限定販売となった

 東京モーターショー出展から約3年半後となる1997年3月、“VehiCROSS(ビークロス)”は世に送り出された。コンセプトカーと異なる点は、生産性とコストの面からプラットフォームはビックホーンのショートボディものを流用した点。

 それにエンジンもパワフルな3.2Lの自然吸気ガソリンエンジンに換装。駆動方式は、ビックホーンにも採用される電子制御トルクスプリット4WDを搭載し、トランスミッションは4速ATのみだった。

 好評だったデザインは、プラットフォームの影響により、ややロングノーズ化されていたが、コンセプトカーそのものと言っていいほど、市販車に十分に反映されていた。

V6、3.2Lのガソリンエンジンを搭載し、スペックは215ps/29.0kgm。電子制御式のトルクスプリット4WDで4AT、10・15モード燃費は7.8km/L、4人乗りだった

 装備も豪華で、レカロ製セミバケットシート、エアバック内蔵のMOMO製レザーステアリングのほか、デザインにより犠牲となった後方視界を確保するために当時まだ珍しいバックカメラが標準化されていた。

 凝ったスタリングから製造にも手間がかかったが、価格上昇を抑えるべく、いすゞ車のみならず、他メーカー車からもパーツを流用することで、現実的な295万円(標準仕様)としていた。

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