10年後のクラウン、方向性は2つ
とある営業マンの方に、クラウンの目下の課題である「顧客層の若返り」について尋ねたところ、「70代が60代後半になりました。」と苦笑いで応えてくれた。
ただ、続けて「新型クラウンが出るたびに、「オプションフル装備のクラウンを買う!」と言っていただけるお客様がいるのは、クラウンだけ。若返りと同時に既存顧客も大切にしたい」とのことだった。
クルマはモデルチェンジできるが、人間の方はそうはいかない。今日時点は自らステアリングを握ることができるオーナーであっても、年を重ねるごとに、足腰に故障が生じて満足に運転できなくなったり、反応速度の衰えを感じ、自ら免許返納をする方も多くなるはずだ。
こうして、顧客が減り続けるであろう10年後、20年後のクラウンは、どこへ向かうべきなのか。筆者の考えは以下だ。
ひとつは、現行型が求めたBMW5シリーズやメルセデス・ベンツEクラスの方向性で、クラウンという名のもとで更なるパフォーマンスアップを目指した「万能優等生セダン」だ。環境性能に優れた新型パワートレイン、たとえばPHEV化、EV化も有効だろう。「トヨタの最新技術の起点モデル」としての登場が相応しい。
レクサスのセダンLS、ES、ISは受け入れられない、というトヨタ党のオーナーにとってはベストチョイスなクルマとなる。プレジデントのような御料車の一歩手間のイメージ、以前あった、クラウンマジェスタのような存在を目指すのがいいかもしれない。
もうひとつは、高齢者対応のドメスティック特化型セダンへ進化する方向だ。自動運転レベル3に近しい先進技術の搭載はもちろんのこと、クルマとのコネクティッド機能を進化させ、運転行為のオートメーション化を進める。
自動パーキング、オートドア開閉、自動エントランスお迎え機能など、70代でも安全に運転ができるクルマとして仕上げる。現クラウンのプラットフォームを生かし、フェイスチェンジやパワートレインの改良を加えながら、ユーザーの高齢化に寄り添って生き延ばす方向だ。
伝統継承という名の革新
自動車メーカーの中にいると、他メーカーの事情が気になってしょうがないことが多い。他社車が最新装備を搭載してきたら、自社製品にもそのアイテムが欲しくなり、コストアップと商品力のせめぎ合いとなる。つまり、先ほど挙げた「万能優等生セダン」へと進みたくなる。
だが、他社車よりもパフォーマンスに優れたクルマになったからといって、期待通りに売れてくれるわけではない。それよりも、既存顧客の「困った」を解決し、買い手にもっと寄り添った後者の方が、結果的によかったとなることがある。
ということで、筆者は後者の「高齢者対応のドメスティック特化型セダン」の道が良いと考える。クラウンならば「何もかもが大丈夫」という、絶対的な信頼関係を、クラウンを売るトヨタ自販は、顧客との間で強固に築いてきた。これからも、クラウンを見守ってきた顧客へ真正面から向きあって、クラウンに絶大な信頼を寄せている「信頼感」を、最後まで守りぬくのだ。
「人生最後に選んだクルマがクラウンで良かった」と思ってもらえたならば、それがブランドとしてのゴールなのだと思う。
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