■セダン界、レジェンドをクラウンがぶっ飛ばす事件
セダンで先輩に殴り飛ばされた後輩グルマといえば、2001年に華々しく登場したトヨタヴェロッサが真っ先に思い浮かぶ。
コンセプト、デザイン、そしてPR方法まで、すべてイタリア。車名からしてVERO(真実)とROSSO(赤)というイタリア語からの造語だったのだから、どんだけかぶれてんだって話。
とはいえ中身はマークIIで、その内外装をトヨタ流解釈のイタリア風にしたというクルマだったから、先輩たちも穏やかではいられない。
当時のマークIIといえばサラリーマン御用達車で、すべてにおいて中庸を心がけていたクルマである。そんなところに「あなたたちはダサすぎますよ」とばかりにイタリアかぶれが登場したら、日馬富士じゃなくてもブチ切れるだろう。
先輩マークIIが後輩ヴェロッサを、個室居酒屋でどんな目に遭わせたのかは想像するだけで震えてしまいそうだ。
また、セダンといえばホンダレジェンドも先輩のクラウンに殴り飛ばされ続けたクルマだ。
古くはウイングターボ、最新モデルではSH-AWDと常に新しい技術を身につけ、それこそ「もうあなたたちの時代じゃないですよ」という風情で登場するのだが、そのたびに先輩クラウンにぶっ飛ばされるという悲しい運命。
ホンダの高級セダンがトヨタに勝てる日はいつかくるのか。草葉の陰で本田宗一郎氏が歯ぎしりしている姿が目に浮かんでしまうのである。
■ジムニーはパジェロミニを殴ったのか?
日本が誇る小型オフローダー、ジムニーにも後輩を殴り飛ばした疑惑がある。相手は三菱パジェロミニ。
1994年に初代が登場、1998年にモデルチェンジし、2013年に2世代かぎりで終わってしまったクルマである。
ジムニーほどの確固たる地位を築いた名車ともなれば、新参者にいちいち神経質になる必要はないはずだが、パジェロミニはその名前がまずかった。ジムニーと双璧をなすビッグネーム「パジェロ」を名乗っていたからだ。
とある街の個室居酒屋。ナリは小さいが態度が大きいクルマがいる。聞けば、世界的に有名な人物の子息だという。まだたいした実績も残していないのに、すでに何かを成し遂げたような顔をしている。
そう「パジェロ」というだけで俺は特別だと思っているのだ。パジェロはパジェロでも「ミニ」なのに。
この業界で長くメシを食い、絶大なる人気と信頼を得ているジムニーとしては心穏やかではいられない。なるほどパジェロ一族だけに実力はありそうだが、明らかに勘違いをしている。
どこか浮ついたところがあり、謙虚に先輩から学ぼうという姿勢が感じられないのだ。そこに危うさを感じながらも「俺も若い頃はこうだったかもしれないな」とジムニーは思う。若い力は必要だ。
出る杭は打たれるというような業界にはしたくない。できれば成長を見守ってやりたい。
しかし、周囲から聞こえてくるパジェロミニの噂は芳しくなく、「一度先輩として、生活態度を注意してやる必要があるな」とも考えている。その時だった。
酔って上機嫌になったパジェロミニは、ジムニーに対し「もうあなたたちの時代じゃないですよ」と言い放ったのだ。しかもスマホをイジりながら!
その後のことはよく覚えていない。我に返った時にはカラオケのリモコンを手にしていた。横にはシャンパンのボトルが倒れている。俺は何をした!? 目の前ではパジェロミニが頭から血を流してうめいている。まさか殴った? 俺がヤツを殴ったのか?
数分後、パジェロミニは何も言わずに店から出ていった。その後のゆくえはわからない。あれからもう5年が経つ。パジェロミニはそのまま生産中止となって業界から姿を消し、ジムニーはもうすぐ4代目にモデルチェンジしようとしている。
誰も知らない、そして、自分自身も記憶がないジムニーの後輩暴行疑惑。数年前に週刊誌が嗅ぎつけたこともあったが、決定的な証拠を見つけることができず、取材を断念したともいわれている。その真実はいまだに闇に包まれたままだ。いつかパジェロミニが復活し、あの時のことを語ることはあるのだろうか?
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以上、後輩を殴り倒したクルマたちというお話でした。ごめんなさい。
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