ほんとうの馬力がカタログ値と実測値で異なる理由は?

 とある自動車専門誌が行った調査で、カタログに載っている馬力と実測値の間に大きな開きがあった、という結果が出たことがある。「え? まさかクルマメーカーは、間違った数値をカタログに載せているの?」と思うことなかれ。実は、クルマの馬力は、実測値とカタログ値で「違いが出て当然」であるのを、あなたはご存じだろうか。
文:吉川賢一


■カタログはエンジン軸出力の数値である

  カタログ値と実測値で違いが出てしまう最大の理由は、「エンジンの出力計測方法」の違いにある。
 自動車メーカーがカタログに掲載する馬力の数値は「エンジン単体で計測した数値」であり、いっぽうの実測値というのは「エンジンをクルマに搭載し、“自動車”の状態で測定したもの」だ。このように計測した条件が異なるため、カタログ値と実測値の間に差異が出てくるわけだ。

『ベストカー』でも2002年12/26号で実験。当時の280馬力規制車をチェックした。テスト結果で衝撃だったのはR34スカイラインGT-R。カタログ表記は280馬力だったが、実測値は340.1馬力だった

■実験はどのように行われているのか?

 カタログに掲載される馬力の数値は、JIS規格に定められている『自動車用エンジン出力試験方法』、通称“ベンチテスト”と呼ばれる試験で計測された値である。このベンチテストは、エンジンを自動車に搭載しない状態で、エンジン軸で馬力や耐久性などを測定する試験である。

https://kikakurui.com/d1/D1001-1993-01.html

 ベンチテストは『ネット軸出力』という測定方法で行われる。ネット軸出力は「エンジンを特定の用途に使用するのに必要な付属装置をすべて装着して測定した軸出力」とJIS規格で定められており、これによると、エアクリーナー、排気ブレーキ、速度制限装置、吸気消音器、ラジエーター、ラジエーターファン、サーモスタット、電子制御装置などを装着することになっているが、駆動系のパーツは装着する必要がない。むしろ、エンジン単体の性能をチェックすることには駆動系パーツが不要となるため、「車両の作動のみに必要となる付属装置は取り除く」と規定されているのだ。

 いっぽう実測値は、完成車を用いて“シャシーダイナモ”で計測したものだ。
このシャシーダイナモは、ローラー上でタイヤが回るため、自動車が道路上を走行するのとほぼ同じ条件下であり、もちろん“すべてのパーツを装着した状態”で試験することになる。クラッチ、ドライブシャフト、ハブ、ブレーキローターなど駆動系のパーツを通してタイヤで発生したパワーが、実測値の馬力として計測されるのだ。エンジンから見て、出力計測に至る過程が長ければ長いほどロスが生じやすくなるため、カタログ値と実測値の差異が生じるのだ。

ベストカー本誌では2016年にも計測。ロードスター、86、シビックタイプRなどを計測した。結果、多くのモデルはカタログ計測値以下の数値だった

参考記事…■86、シビックタイプR、ロードスター……注目車の“本当の馬力” 燃費と同じ!! カタログ値と実馬力は違う!!

■計測環境が違うと結果も変わる

 上記に加えて、計測環境の違いも影響してくる。計測時は「標準大気状態に設定することが望ましい(JIS規格)」とされている。この標準大気状態は『温度が摂氏25℃、乾燥大気圧力が99kPa』と設定されているが、この状態がエンジンの稼働にとって最も好ましい状態かというと、湿度や天候などその他の条件もかかわってくるため、一概に言えるものではない。

 また、規定には「望ましい」とされているだけなので、この環境が絶対条件というわけでもない。天候、気温、気圧などは、エンジンパフォーマンスに影響するので、こうした計測環境の違いも、計測値の差異につながってしまう。

 エンジンは、パーツとパーツがこすり合わさりながら動く仕組みである。そのため、摩擦によって失われるフリクションロスがどうしても生じる。フリクションロスは、製造時点での個体ごとに異なる。メーカーはそのばらつき量をある幅の中に入るように「ロバストな設計」をしているのだが、『エンジンを計測した』カタログ値と、『完成車を計測した』実測値では、同じ形式の車両であっても異なる個体なので、計測値に差異が出てくるのは、ある意味当然なのである。

■まとめ

「エンジン単体」を数値化するのは、いわばクルマの「解体新書」を作るためである。
 パーツごとに分け、ギア比などのスペックを数値化し、そのクルマの構成を表そうとしたものだ。
 対して、「完成車の計測」は、馬力の最終的なアウトプットを見ている。これには、例えばタイヤの摩耗状態によっても繊細に数値が変わってしまうといったリスクがあるが、そうしたばらつき要素も含めた車両性能を測ることができる。どちらが正しいのではなく、「用途」が異なるため、どちらも重要なのだ。

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