カタログに載っている数字は実測値と違うことがある。これは実燃費とカタログ燃費が違うことでもよくご存じだろう。
では、馬力はどうか? というと、こちらもカタログ値と実測値は違うのだ。86を筆頭に、注目のスポーツカーからディーゼルモデルまで、注目車の実測した馬力=実馬力は!?
文:ベストカー編集部
写真:西尾タクト
ベストカー2016年5月26日号
実馬力は同じ車種でも違いあり!!
■TOYOTA 86
トップバッターは86。今回は3台の86を用意し、実馬力の個体差がどれほどかを測ろうという趣向だ。用意した3台の86は、
①2013年式・走行約2万kmの86
②2012年式・走行約4万kmの86
③2014年式・走行約1万kmの86
3台ともに改造なし。マイナーチェンジ前のノーマル車両。まずは①の86からだが……なんとほぼカタログ値に迫る196.2psをマーク!! 続いては②の86をテスト。その結果は176.8ps!! う~む……20psも違う。
そして、最後に最も走行距離が短く、新しい③の86を測定。……が、実馬力はよもやの175.8psと、なんと3台中最下位。
実は2013年におこなったテストでも86の実馬力は184.8ps。今回3台を同一条件で試験した結果も考慮すると、①の86が“当たり”の個体で、むしろ残り2台は一般的な86の実力を示しているといえそうだ。
最高出力 | 最大トルク | |
カタログ値 | 200ps | 20.9kgm |
テスト車86① |
196.2ps | 19.0kgm |
測定値 | (98.1%) | (90.1%) |
テスト車86② |
176.8ps | 17.8kgm |
測定値 | (88.4%) | (85.2%) |
テスト車86③ |
175.8ps | 17.9kgm |
測定値 | (87.9%) | (85.6%) |
※()内はカタログ値に対する達成率
あのメーカーはカタログ値以上をマークする優秀な結果に!!
■MAZDA ロードスター
続いてはND型ロードスター。NAエンジンはカタログ値に対して達成率100%越えが難しい。
だが、測定値は135.1ps!! なんとカタログスペック比達成率にして103.1%という優秀な結果を残した。
テスターの日本自動車大学校、門野寛氏(1級整備士)は、「この好成績は86などに比べ、フリクションロス(摩擦損失)が少ないことが影響していると思います」とひと言。
ちなみに先代NC型の実馬力は161.4ps。500ccの排気量差はあるものの、達成率で比較すれば、現行ND型は極めて優秀な結果だ。
カタログ最高出力 | 131ps |
実馬力 | 135.1ps |
(103.1%) | |
カタログ最大トルク | 15.3kgm |
実トルク | 13.9kgm |
(90.8%) |
■HONDA シビックタイプR
続いてはシビックタイプR(FK2型)。FFながら2Lターボとしては最強のカタログ馬力310psを誇り、カタログ上では現行WRX STIさえも上回っている韋駄天だ。
テストを開始すると問題発生。このシャシーダイナモ、設計上は1200psまで対応しているが、「前輪駆動でこれだけハイパワー車をテストしたことはないかも」(門野氏)ということで、上手くデータが採れるまで約1時間を要した。
ピークパワー到達前に、シャシーダイナモ側が誤認識で測定を終了してしまうことなどに原因があったようだが、苦心の末、測定に成功!!
その実馬力は……276.7ps。ちょっとばかり物足りない印象だが、その要因は「トラクションをきっちり伝えきれなかったからでは?」と門野氏。実際はもう少し実馬力が出てもおかしくないかなといった印象だった。
ちなみに、現時点での2Lターボ実馬力記録はランエボⅨ MR(327.1ps)だ。
カタログ最高出力 | 310ps |
実馬力 | 276.7ps |
(89.3%) | |
カタログ最大トルク | 40.8kgm |
実トルク | 34.7kgm |
(85.0%) |
■MAZDA デミオ
続いては現行型デミオXD(AT)を測定。
結果は、本テスト2台目のカタログスペック比、達成率100%越え!! 実馬力は111.7psとなった。ロードスターに続き、マツダ車が優秀な実馬力をマーク。
ちなみに以前の実馬力テストでは、2.2Lディーゼルターボを積むCX-5(先代)をテストしたが、こちらもカタログ越えを記録。マツダのディーゼルターボは優秀な実馬力を備えているといえそうだ。
カタログ最高出力 | 105ps |
実馬力 | 111.7ps |
(103.1%) | |
カタログ最大トルク | 25.5kgm |
実トルク | 18.3kgm |
(71.8%) |
歴代インプ&ランエボも!! 実馬力テストバックナンバー
『ベストカー』でこれまでおこなってきたテスト結果を見ると、ターボ車はカタログ値以上の実馬力をマークし、NAエンジン車はカタログ値以下となるケースが多い。
その理由を、メカニズムに詳しい自動車評論家、鈴木直也氏は次のように解説する。
「NAエンジンは、過給エンジン以上にエンジンの内部フリクションが馬力に影響する」
「NAエンジンを搭載するロードスターは、フリクションロスの少なさが好結果に繋がった可能性が高い」
【表】は、これまでおこなってきた実馬力テストの主な結果。このデータからも、『ターボ車はカタログ値以上、NA車はカタログ値以下』という実馬力の傾向が読み取れる。
実馬力測定に使う『シャシーダイナモ』とは?
今回の実馬力測定は、日本自動車大学校(千葉県成田市)の「シャシーダイナモ」でおこなった。
シャシーダイナモは、写真のローラー上に車を乗せ、エンジンパワーでそのローラーを回転させ、最高出力を測定するという機器。
最大トルクも測定でき、ほかに路上走行状態での排ガステストや燃料消費なども測定できるマルチな機器なのだ。
実馬力の測定はローラーにテスト車を乗せ、テスターがその運転席からアクセルを踏み、最高出力が出るポイントまで徐々にエンジンの回転数を上げていくという方法でおこなう。
簡単に聞こえるが、実はかなり繊細で、実馬力を計るまでトライ&エラーを繰り返した車もあったほどだ。テストは条件を揃えるため、同校の熟練テスターが、すべての測定をおこなった。
カタログ上の最高出力や最大トルクは、実際に測定した値とは違う。これはカタログ燃費と実燃費が異なるのと同じだ。
『カタログには載っていない本当の実力』の目安としてぜひ参考にしてほしい。
※シャシーダイナモによる測定は気温や気圧、テスターなどのコンディションにより変動するため、この結果が絶対値ではありません。