スポーツカーに限らず前後で異なるサイズのタイヤを純正で装着しているクルマがあるが、どんな意味を持っているのだろうか。リアタイヤを太くした結果か、ステアリングを切りやすくするためにフロントを細くしたのか。
加えて前後で違うサイズのクルマの注意ポイントなどについても言及していく。タイヤのローテーションもできないし、不経済ではあるのも事実。
タイヤのスペシャリスト、斎藤聡氏が前後で異なるサイズがなぜ必要なのかを解説する。
文:斎藤聡/写真:LEXUS、TOYOTA、HONDA、平野学、池之平昌信、ベストカー編集部
ステアリング特性を理解する
クルマの操縦性はオーバーステアだと恐ろしく乗り難いので、自動車メーカーはほぼ例外なくクルマを弱アンダーステアになるようにセットアップしています。
アンダーステア、オーバーステアという言葉は聞いたことがあると思います。
「アンダーステアは、ハンドルを一定舵角で定常円旋回し、旋回スピードを上げていったときに、クルマが円よりも外に膨らんでいってしまう特性のこと。オーバーステアは、同じように定常円を走りながら旋回スピードを上げていったとき、クルマが内側に切れこんでしまう特性のこと」
というのが一般的な解答です。
これはクルマを走らせたときの事象としてのオーバーステア、アンダーステアですが、実はクルマは設計段階でオーバーステア、アンダーステアの特性は決まっています。
ちなみに、定常円を旋回しながらスピードを上げていっても軌跡が変わらない特性をニュートラスステア、最初アンダーステアで、途中からオーバーステアに転じる特性をリバースステアと言います。
重量配分が重要カギを握る
設計段階と書きましたがどういうことかというと、前後の重量配分です。
前後重量配分に関わらず、タイヤのグリップにまだ余裕を残した状態で、クルマがある旋回半径の円を一定のスピードで走っているとき、遠心力(F)と前後のタイヤが発生するコーナリングフォース(CF≒グリップ力)の総和は釣り合っています。
さらに旋回スピードを上げて、遠心力を強くしていくとどうなるでしょう。
前後重量配分が50対50のクルマは、旋回スピードを上げても旋回期軌跡は変わらずニュートラスステアを示します。
フロントヘビーなクルマは、重心位置がホイールベースの中心よりも前に来るので、前輪の負担が大きく、そのぶんフロントタイヤの軌跡が外回りになってアンダーステアを示します。
リアヘビーなクルマは、重心位置が中心より後ろに来るので、リアタイヤの負担が大きく、旋回軌跡は内側に入ってオーバーステアとなります。
これを式で表してみます。
前輪のコーナリングフォースをCFf、後輪のコーナリングフォースをCFrとすると、
遠心力F=CFf+CFrという式が成り立ちます。
またホイールベースの長さをL、前輪から重心までの距離をLf、後輪から重心までの距離をLrとすると、前輪の負担する力の割合と、後輪が負担する力の割合は、タイヤのグリップ力と重心位置の割合によって決まるので、
F=CFf×Lf-CFr×Lr
という式が成り立ちます。
次に重心位置の回転モーメント(M)を考えてみます。一定速度で定常円旋回している状態から、旋回スピードを上げて遠心力を強くします。
CFf×Lf=CFr×Lrは、重心を挟んで前輪側と後輪側2つのモーメントが等しいのでM=0。つまりモーメントはが発生しないので、ニュートラルステアとなります。
CFf×Lf<CFr×Lrの場合は、例えば、左に旋回しようとしているときに回転モーメントMに正の力が働くので、オーバーステアとなります。
逆にCFf×Lf>CFr×Lrの場合は、左旋回なら、負の力が発生し、回転モーメントを打ち消す方向に働くのでアンダーステアとなります。
ちなみに、前後のタイヤサイズが同じなら、コーナリングフォー(≒グリップ力)は前後同じと考えられるので、回転モーメントMにかかる力は、LfとLrの大きさによって変わるといえるわけです。
LfとLrの大きさは重心の位置なので、重心がホイールベースの中心にあればニュートラスステア、ホールベースの中心より前にあればアンダーステア、後ろにあればオーバーステアになるということができます。
アンダー、ニュートラル、オーバーといった操縦性は、重心の位置によって決まるわけです。けれども、ほかに操縦性を変えることができないわけではありません。
そうCFf、CFr…つまりタイヤの前後のグリップ力を変えると操縦性を変えることができるのです。
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