宿敵、セナとのあのバトルの裏側
そして、プロストはF1現役時代のこんな裏話も教えてくれた。1990年の日本GPについてのエピソードだ。
当時、チャンピオン争いは、フェラーリのプロスト VS マクラーレン・ホンダのセナという構図で展開されていた。
そして、結末はご存じのとおり。故意か過失か、セナが1周目の1コーナーでプロストにマシンを当て、両者は接触、そしてリタイア。この瞬間、セナのチャンピオンが決まった。
プロストは過去をこう振り返る。「マクラーレン・ホンダにいた僕の元担当エンジニアが、『こんなのおかしいだろ!!』と言って、その日にチームを辞めたという話を聞いたんだ。それを聞いて僕は凄く嬉しかった」
プロストにとっても、最高のエンジンを用意したマクラーレン・ホンダのエンジニアにとっても、セナのやり方に対して「それはないだろ」という気持ちがあった。
そうしたなかで自分の元担当エンジニアが、この出来事の直後にチームを去るという決断をしてくれたことが、彼にとっては嬉しかったのだという。
プロスト語る「モータースポーツの未来はフォーミュラE」
話題は未来へと向かう。プロストはこう続けた。
「マラケシュ戦の直前、ゴーン社長と会ってね。それで彼に『F1の監督をやったらどうか?』と言われたけれど、僕は断ったんだ」
ルノーはフォーミュラEに参戦しつつ、2016年からF1のワークス活動を再開した。
現状、フォーミュラEのシャシーやバッテリーはワンメイクで開発の自由度も低い。バッテリー容量の問題から、レース中にスペアマシンに乗り換えなくてはならない。
F1に匹敵するレベルになるには、まだまだ時間がかかるという見方が一般的だ。
にも関わらず、なぜプロストはフォーミュラEに可能性を見いだすのか? 彼の考えはこうだ。
「次の2017/2018シーズンになれば、フォーミュラEはやっとレースらしさが出てくる。これが第1段階だ」
実は現在採用されているウィリアムズ製のバッテリーは、2017/2018シーズンにはマクラーレン製となる。これによって、フォーミュラEは1台のマシンでレースを走りきれるようになるのだ。
現在、フォーミュラEは発足から3シーズン目だが、シーズン8、9の頃には開発が完全に自由化される。
すでにパナソニックはジャガーと組んで参戦しているが、あと5年程度で例えば「バッテリーはパナソニック製が一番」といった流れになるというのがプロストの見立てだ。
「シーズン8の頃には、多くのメーカーが競争するようになる。だから、その時初めて日本のメーカーがきても遅いんだよ」
日本人の僕に向かってプロストは、こう言った。つまり、「トヨタよ、ホンダよ、フォーミュラEに来るなら今だぞ」。プロストは暗にそう示しているように私は感じた。
F1で「いいエンジン、いいタイヤ」と、さまざまなメーカー間競争があったように、フォーミュラEに「いいモーター、いいバッテリー」という競争の時代が訪れる日は遠くない。
プロストは「モータースポーツの将来はフォーミュラEだ」と私に言い切った。
海老原芳治
1956年生まれ。1980年代後半から日産ル・マン活動の通訳を務める。その後、元F1ドライバーの中野信治氏のマネージャーなどを務め、F1を始めとする欧州モータースポーツの取材を行う。ベストカー欧州特派員
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