現代F1のピットストップに何秒かかるかご存じだろうか。なんとその最速記録は1.92秒!
約30年前は、少なくとも5秒以上かかっていたことを考えると、とんでもなく速い。まずはウィリアムズが2016年に記録したその驚速ピットストップをご覧いただきたい。
プロ野球の投手がクイックモーションで投球して捕手のミットに球が収まるまでの時間が1秒台といわれているので、もはやそれとほぼ同等の速さである。
なぜ、これほどまでにF1のピット作業が高速化したのか? 津川哲夫氏がその秘密を解説する。
文:津川哲夫
写真:Getty images/Red Bull Content Pool,Ferrari,Daimler
1/100秒を争うF1で大きな鍵握るピット作業
今シーズンF1は見応えのあるレースが展開されている。序盤・中盤での順位争いのバトルは手に汗握るドッグファイトが、そして終盤にはレース作戦の違いで起こる100分の1秒を攻める追い上げ劇が観る者に固唾を飲ませる。
もちろんドライバーの能力はドライビングだけでなく、燃料もタイヤも周囲の状況も把握して、自分に有利なレースを展開する力も必要なのだ。とはいえドライバーやマシンだけでレースは成り立っているわけじゃない。
タイヤ交換のピットストップは今や極めて重要なレースの一部なのだ。
実際、ドライバーが頑張り、ライバルとの差をつけるのはラップ毎に0.01秒単位。極めて大きくても0.1秒単位がやっとなのが、今のF1の凄まじいレベルなのだ。
ところがピットストップで僅かにミスを犯せば、それだけで0.1秒単位どころか1秒単位で時間を失ってしまう。したがってピットストップは実にシビアなレースそのものというわけだ。
超一流のドライバーが競えば、コース上では0.1秒削るのも至難の業。それだけに、その“0.1秒”を削るチャンスがあるピット作業は、ハイレベルな進化を遂げているのだ
ピットストップ高速化のきっかけは給油の廃止
いわゆるピットストップが始まったのは第一次給油時代、1980年代の話だ。ハーフタンクの軽量な状態で、ソフトなハイグリップタイヤを履いてスタートし、序盤に大きなアドバンテージを築く。
そして、給油とタイヤ交換を同時に行い、フレッシュソフトタイヤで一気にゴールを目指すという方式が生まれた。
しかし、給油には6~7秒ほど取られるので(ちなみにこの時の給油は加圧式で驚くほどの勢いで燃料がタンクに圧送されていた)、タイヤ交換そのものには、比較的時間をかけることができた。
1993年に復活した後、2009年まではレース中の給油が認められていた。しかし、給油が廃止されると、タイヤ交換の速さがより重要な意味を持つことになる
したがって多くの場合、タイヤ交換はガンマン(タイヤ脱着用のガンを扱う人間)とサポーターの2名体制が普通で、速くても5~6秒と言う時間が掛かっていた。
しかし、現在はレース中の給油は廃止され、タイヤ交換は義務。さらに、タイヤの選択も全チーム条件は同じになった。
つまり、単純にタイヤの使い方と交換のタイミングが勝負となり、そのため可能なかぎり短時間でタイヤ交換作業をおこなうことが必須となった。
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