第94回ル・マン24時間レースに豊田チームは昨年までのガズーレーシング(GR)からではなく、トヨタレーシング(TR)から参戦した。結果は見事なものだったが、トヨタレーシングの会長中嶋裕樹会長は、「参戦の狙い」について違う見方から話してくれた。
文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタレーシング
【画像ギャラリー】合言葉は「ワッショイ」!! 新生トヨタレーシング、チーム一丸で掴んだ勝利と感動の様子をもう一度!(4枚)画像ギャラリー勝利にこだわることで、エンジニアの魂に火を付けたい
トヨタレーシングからの参戦となった今年のル・マン。マイク・コンウェイ、小林可夢偉、ニック・デ・フリース組の7号車が見事優勝! セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレー、平川亮組の8号車が3位となった。トヨタの優勝は2022年以来6度目だ。この勝利を誰よりも喜んだのがトヨタレーシングの中嶋裕樹会長だろう。
なぜトヨタレーシングを作ったのか?
そこには豊田章男会長の一言があった。「中嶋、チャレンジさせているか?」その一言に中嶋氏はハッとなったという。中嶋氏自身トヨタ自動車の技術部に入り、チーフエンジニア(CE)に憧れた。中嶋氏が入社したころのチーフエンジニアは自分がつくりたいクルマをつくれる唯我独尊的な存在だった。
極端な話、本部長や役員よりもチーフエンジニアのほうが、権力を持っていた。裏返せば、クルマへの情熱を誰よりも持っていなければ、チーフエンジニアは務まらなかった。
しかし、現在では「若いエンジニアたちはつくりたいクルマをつくっていないのではないか?」と思うようになった。その理由のひとつに、「失敗したらどうしよう?」という気持ちがエンジニアたちにあるのでは? と中嶋氏は推測する。
だからこそ豊田章男会長からの「挑戦させているか?」の一言にハッとなったのだ。オートサロンでモリゾウGRvs中嶋TRの対決が終わった直後、中嶋氏はケルンに飛んだ。
WECを戦うエンジニアたちを集めて「ル・マンは絶対に勝ちます! 勝つためならやりたいようにやってくれ! あとは俺が責任を取る!」とぶち上げた。この言葉にエンジニアたちは口々に「背中を押された」と振り返る。
今年のル・マンのスローガンは「For the Engineering Race」だ。エンジニアが勝利をつかむべくレースにひたむきに向き合い、技術を磨いていくという意味が込められている。やりたいことがあればやればいい! エンジニアにはいつも門戸が開かれている。そのメッセージを社内のエンジニアたちに発信する場としてル・マン24時間レース以上の舞台はない。
そして、参戦にあたって中嶋氏は己のミッションを整理した。
1. トヨタに在籍するエンジニアたちの魂に火をつけること
2. トヨタのエンジニアになりたいと思う学生にアピールすること
「この2つがトヨタレーシング会長としてのミッションです」。中嶋氏の言葉はいつも以上に熱がこもっていた。
なぜトヨタレーシングという組織への改革が必要だったのか?
これまでドイツ・ケルンにある研究開発拠点TGR-E(TOYOTA GAZOO Racing Europe)がWECの活動を行ってきた。レースに勝つにはレースエンジニアたちの活躍が欠かせないが、レースという狭い世界からしか技術を見られなくなってしまうこともある。
『TOYOTA RACING』に変えた大きな理由の一つが「先行開発技術を通じたモータースポーツ活動に特化し、エンジン開発等において技術を磨いていく」という、本来の姿に立ち返ることだ。
パワートレーンカンパニーの上原隆史プレジデントはトヨタレーシング発足以来、2カ月に1度頻度でケルンに通った。そこでは「なぜこんな古いソフトを使っているのか?」といった驚きもあった。「レースのほうが技術はすごいと思われがちですが、市販車の技術のほうが緻密で、進んでいることは少なくありません」。
レースから得た知見を市販車にフィードバック! とよく言われるが、レース部門と市販車の組織は別々に動いている。上原氏はレースと量産両方のメンバーをミックスし、組織を変えてきた。
また、ケルンのトヨタレーシングで、マーケティングの責任者を務める井手鉄矢氏は、
「これまでも勝利が目標でしたが、負けても『もっといいクルマづくり』につながればいいという考えもがありました。日本人のパワートレーンの技術者とレースを仕切る欧米人の考え方の違いもあり、TGR-Eの技術部門は行き詰っていましたね。
トヨタレーシングになり、勝つためのエンジニアリングという考えはある意味、エンジニアには厳しい要求ともいえますが、エンジニアたちは生き生きとやっていますね」
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