「それからこのラリーで一番気をつけたのは、スライドする時も去年よりもタイヤ1本分はスライドさせないように走りました。それからパンク対策。去年よりタイヤ一本分、安全側に倒して、クルマを滑らせずに走りました。やっぱりタイヤ1本分でも外に行ってしまうと、知らない道を走っていきますので、パンクリスクがぐっと上がります。岩場なんかは特にそうですね。実際トップランクでパンクしてないクルマって、我々ともう1台ぐらいしかなかったんです」
一方、ナビを務めた保井選手は、クルマが速くなることを手放しには喜べない、コ・ドライバーならではの葛藤を口にした。
「いま田口さんがおっしゃったように、去年よりクルマが速くなって、すごく性能が上がったんですけれども、コドライバー的には、それは嬉しいだけじゃなくて、やっぱりクルマがどんどん速くなっていくと、ナビゲーション速度もどんどん上げていかなくちゃいけなくて。いろいろと思考が追いつかなくなってくるんですね。今年は本当に大変でした」
「ただ、ラフなセクションとかパンクのリスクがあるところ、あとジャングルとかでミスコースしやすいセクションでは田口さんがちゃんと抑えて走ってくれて、で、ハイスピードなところで稼ぐっていう、メリハリのある走りをしてくれたおかげで、うまくコンビネーションが噛み合ったかなと思います。本当に、レグ3でトップに立ってからはもうまったくミスができない状況で、ずっと毎晩毎晩、緊張とプレッシャーから泣いてたんですけども(笑)、勝ててよかったです」
来年もこの勝ち方でいけるか、そして「危機」の瞬間
質疑応答では、まず本誌が田口に問うた。今年で挑戦4年目、「勝ち方が分かった」という発言があったが、来季も同じ戦略でいけるのか。
「確かに、今年に関してはすべてが上手くいって勝てました。AXCRでの戦い方がわかった気がします。でも、来年はライバルが大幅にクルマの性能を上げてくるのがモータースポーツです。今年は良かったからといって、何もしなければ来年はもうほぼ負けると思います。なので、今からすぐ準備をして、いいクルマ作り、それから来年はまたその流れの中でうまくペースを作っていくことが重要になっていくでしょう。あと私、まだ来年の契約してないんで、出させてもらえるなら決まってから、ということで増岡さん、よろしくお願いします(笑)」
続けて、6日間・2,000kmの中で「これは危機的だ」と感じた瞬間を保井に尋ねた。保井が挙げたのは、ミスコースの恐怖だった。
「レグ3だったか、1分ぐらいミスコースした時ですかね。もしこれが1分で終わるのか、5分になるのか、20分になるのかっていう恐怖はありましたけれども、今回は田口さんが本当にキレキレで。前のクルマが迷ってる時でも焦らずに待ってくれたり。道が、30頭の牛で埋められてる時もあの牛の先に絶対道がある! とか言っていて(笑)。すごいキレた走りをしてくれたんで、本当に事なきを得ました」
新型パジェロへの期待──連覇が「露払い」になった秋の大仕事
三菱にとって、AXCR2026の連覇は単なる一勝利にとどまらない。五十嵐が挨拶の最後に触れたように、この結果は今年の秋に世界初公開を予定する新型「パジェロ」の露払いという性格を帯びていた。
初代パジェロは1982年の発売から4世代にわたって展開され、世界で325万台以上を売り上げた三菱のフラッグシップだ。日本仕様は2019年の生産終了から数えて7年ぶりの復活となる新型は、トライトンのラダーフレームをベースに、キャビンと前後サスペンションを専用開発。「卓越した悪路走破性」と「上質かつ快適な乗り心地」の両立を掲げ、三菱自動車が「冒険心と挑戦心を象徴する新たなるフラッグシップモデル」と位置づける一台だ。
パジェロは三菱にとって特別なクルマであり、その名はもちろん、チーム三菱の総監督である増岡浩にもおおいに関係する伝説がある。増岡総監督は2002年・2003年、日本人として初めてダカール・ラリーを連覇したのがパジェロであり増岡監督だった。その増岡がいま、AXCRという舞台でトライトンを鍛え上げ、その先に新型パジェロを見据えている。五十嵐が「このレースはどうしても勝って、発表発売に華を持たせる」という増岡の言葉を紹介した通り、今回の連覇そのものが、秋の新型パジェロ発表に華を添えた。
以下、来季のAXCRの参戦車両について記者から問われた際の、増岡監督の言葉を紹介する。
「これ、どこまで言っていいんですかね、もう僕の腹の中では(来年のAXCRの参戦車両は)パジェロで決まっているんですけども……(笑)。ええと、これは僕個人の思いです(笑)。新しいクルマを作るのってすごく楽しみだし、ポテンシャルはすごくあると思います。パジェロはトライトンの兄弟車みたいなものですから、いままで得てきたいろいろなノウハウをパジェロにも活かして、戦闘力の高いクルマに仕上げて、来年、三連覇を目指します」
AXCR2026 総合リザルト
| 総合 | クルー | 車両 | タイム |
| 1位 | 田口勝彦/保井隆宏 | 三菱トライトン(106号車) | 12:58:20 |
| 2位 | マナ・ポーンシリチャード/キティサック・クリンチャン | トヨタ・ハイラックス レボ | 13:00:45(+2:25) |
| 3位 | ディサポン・マネーイン/アティキット・シーモンコン | いすゞD-MAX | 13:08:22(+10:02) |
| 27位 | 小出一登/千葉栄二 | 三菱トライトン(118号車) | 20:58:30 |
| 36位 | チャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン | 三菱トライトン(101号車) | 34:48:43 |
2分25秒、そして次はパジェロへ
チーム三菱ラリーアートの田口勝彦/保井隆宏組は、レグ3で掴んだわずか8秒のリードを守り抜き、最終的に2位・マナ・ポーンシリチャード/キティサック・クリンチャン組(トヨタ・ハイラックス レボ)に2分25秒差をつけて、31回目のAXCRを制した。
会見で語られた言葉の端々から見えてきたのは、この勝利が幸運の賜物ではなく、前後重量配分を50対50に近づけるという「手堅い進化」、タイヤ1本分の余裕を残すという徹底したリスク管理、そして「勝つためにスピードを落とすところと踏むところを峻別した」というドライバーの覚悟、コドライバーの信頼の上に成り立っていたということだ。
そして何より、この連覇は2026年秋に世界初公開される新型パジェロという、三菱自動車にとっての次の挑戦への号砲でもある。増岡総監督が語った「来年パジェロで3連覇」という夢が、いつ会社としての目標に変わるのか。三菱ラリーアートの戦いは、すでに始まっている。まずはおめでとうございます。おつかれさまでした!
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