角田裕毅はピエール・ガスリーになぜ勝てないのか? 苦戦する原因を探った

■どこにガスリーに後れを取る理由があるのか?

 ほんの僅かしかないデータからだが、彼らの走りを見つめてみると、2人にはアルファタウリAT02を駆る方法が違っていることが解る。

 その違いを端的にいうならば、極論だが最も大きな違いはAT02を“繊細に無駄なく操っている”か “強引にねじ伏せようとしている”かというところだろう。

 もちろん繊細かつ歯切れの良いコントロールで効率良く走らせているのがガスリーであり、強引にねじ伏せるようとしているのが角田ということになる。

 より具体的にいえば ガスリーはスロットルを素早く繊細にすべての領域で使いこなし、強力で短いブレーキングでより素早く効果的な減速をしているが、角田はまだガスリーのように二つのペダルワークを100%できていない。

 さらにガスリーはこの二つのペダルワークを効率的に行ってコーナリング、特に回頭時に利用し、ステアリングを必要最小限の動きでターンし、ノーズを素早くかつスムースに進行方向へ向けるコーナリングをする。素早い回頭は後に大きな横Gを生まずにそのまま直線的な加速Gを生み出すのだ。

ガスリーはAT02を“繊細に無駄なく操っている”が、角田は “強引にねじ伏せようとしている”
ガスリーはAT02を“繊細に無駄なく操っている”が、角田は “強引にねじ伏せようとしている”

 ガスリーのドライビングは、これに回転数の高めな素早いシフトが加わる。特にダウンシフトは角田よりもエンジン回転数を維持したシフトをしている。これがどれほどエンジンブレーキ等に関わってくるのかは解らないが、素早くスムースな減速効率に役立っているはずだ。

■ドライビングでアンダーを誘発している角田

  角田のドライビングは見た目には深く激しいブレーキングをしていても、必要な減速を得られずオーバースピード気味のコーナリングとなり、多くはアンダーステアを誘発し、この修正のために大きくステアリングアクションを起こすことを強いられている。

 速く走ることにとらわれて、コーナーへの突っ込みが深くなり過ぎている傾向が見受けられるのだ。結果、ノーズが進行方向へ向いていない分、加速時により大きな横Gがかかり、タイヤマネージメントにも良い影響は与えない。

 またハードブレーキと急激なオン・オフを多用するスロットルワークでの加速は、アンダーだけではなく予想しないオーバーステアも発生させ、これが出ればまたステアリングでの修正が必要になり、スピンやトラックリミットオーバー等を誘発してしまう。

 ガスリーの速さはここ2年程で築かれたはずだ。なぜなら昨年から今年にかけて、ガスリーのドライビングは明らかにスムースになってきており、さらに速さも増し、安定性も増しているのだから。

  角田裕毅のジグソーの全ピースがはまったときには、間違いなく目覚ましいポテンシャルを発揮するはずだ。随所でそれを垣間見せてくれている。しかし1ピースも失わずに収めるのは難しい。問題はポテンシャルそのものではなく、角田自身がそのポテンシャルをしっかりと把握しているかどうかなのだ。自分を理解すれば、おのずと自分のドライビングが見えてくるはずだ。

トルコGPでは王者ハミルトンを8周も押さえ込んで見せた。自分のドライビングが見えてきたか
トルコGPでは王者ハミルトンを8周も押さえ込んで見せた。自分のドライビングが見えてきたか

 F1学校1年生の角田裕毅は、殻を割って出たばかりのまだヒヨッコ。誰もまだどんな鳥に育つのかは解っていない。外れれば飛ばない鶏だが、当たれば大きな翼を授かった荒鷲になる可能性を秘めている。

 我々ファンとしては、荒鷲への可能性を信じてみたい。

TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.

【画像ギャラリー】角田裕毅の2021シーズンを写真で振り返る(4枚)画像ギャラリー

津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
・ブログ「哲じいの車輪くらぶ」はこちら
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