過去、不振によるリーダーの解雇はフェラーリでは日常茶飯事
フェラーリF1-75は最速マシンであることは味方もライバルも認め、ルクレールの速さも、サインツの攻撃的な強さも誰もが認めるところなのに……、勝てない。こうなってくると誰が見てもチームの不備、チームの失策、等々全ての矛先はフェラーリチームとマネージメントに向けられる。
そしてこれはイタリア的、フェラーリ的責任問題に発展する。現実に矢面に立たされているのがビノット代表だ。現在チーム・リーダーとして彼の資質がイタリア的批判の的になっている。不振によるリーダーの解雇などフェラーリでは日常茶飯事だが、多くの場合その後を継ぐ者が成功を収めた話は聞かない。
現在のフェラーリの技術的なレベルは非常に高いことはF1-75が証明している。事実アップデートでも確実にポテンシャルをあげているのだ。非常に出来の良いF1-75は出だしから完成形に近く、完成形故にその後の伸び代の幅に多少の危惧はあったものの、アップデートでその危惧を払拭して見せた。したがってこのマシンを創造したエンジニアリング・チームの優秀性もまた証明されているわけだ。
チームの要の揺らぎ、チーム内の意思疎通の乱れ……と言うよりも疎通の無さといっても言い過ぎではないかもしれない。レース中のピットとドライバーの疎通の乱れがそんなフェラーリの状況を端的に表している。
ルクレールの堪忍袋が切れるのは時間の問題か?
今回のレースでサインツはピットを信頼していなかった。性格上意思をハッキリ示すサインツはピットの指示に従わなかった。そして、ルクレールはフェラーリの秘蔵っ子、自分がフェラーリを背負って立つエースであることの自覚から、チームへのそして数多くの問題と不満に対しても口をつぐみ、フェラーリ的フェラーリマンを貫いている。……しかし、優勝を何度も逃しているこの状況でいつまでもつのだろう。
この不満の堆積がいずれルクレールの堪忍袋の限界に到達する可能性は大きい。果たしてその緒が切れて、不満の全てが吹き出したとき、フェラーリとルクレールの関係はどうなってゆくのだろうか?
プロストが、アロンソが、ベッテルが、ライコネンが通ってきた道をルクレールも通るのだろうか? それとも新時代の跳ね馬のエースはイタリアンレッドのフェラーリの色を塗り替えることができるのだろうか?
勝利は全てを変える力を持っている。したがってルクレールは今後、勝利を重ねればチームへの信頼感が戻り、チームもガラリと雰囲気が変わるはず、これはF1だけでなくチーム競技のネイチャーだ。それには後半戦、チャンピオンに届かずとも、勝ち続けることが最良の薬。果たしてフェラーリとルクレール、その妙薬を得ることができるのだろうか……。
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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