赤旗無視。ルールを守って走れば危なくないはず
ガスリーがなんと言おうと、他のドライバーがいかなるコメントを出そうとも、ルールを守っていないならば、それらは無意味だ。ガスリーはSC出動の意味を無視して、赤旗の意味さえも完全に無視し、彼自身の言うまったく視界の効かない雨のコース上を突っ走った。彼とそして何人かのドライバーは口裏を合わせてローダーの走行を非難したが、それは間違いだ。
しかもドライバーたちは2014年のビアンキの事故を持ち出して、“同じミステイクで学んでいない”とマーシャル(レース運営を行うための係員の総称)たちの行動を非難した。ドライバーの言葉は強く、マーシャルには反論する場も反論する権利さえもないから、彼らの言葉はまるで「ビアンキの事故はマーシャルが悪い」といわんばかりだ。世間はそんなドライバーの強い言葉に乗っかり、一部のネットもジャーナリズムも、無責任に非難している。
SCコーションのスイッチはもちろんFIAのレースダイレクター(RD)が判断を下す。今回もSCの判断が素早く行われた。実際ガスリーがピットアウトした時点でコースはSC出動になっていたのだ。そしてSCの意味はコース上に危険があり、その撤去のためには「レース走行をしてはいけない」ということ。SCが出動し、レース車は各々スピードを抑え、追い越し等のバトルを禁じ、隊列を整えるのだ。時にはそのままピットロード通過の手段さえとることもある。
百歩譲って「RD側の過失」について考えるならば、SCのスイッチを入れてから、RDがローダーに処理作業への出動を命令したのが速すぎたかもしれない。これはRDの反省点になるだろう。しかしすでにSCが全コース上に出ている限り、作業者の進入は当然だ。単に状況が雨で視界が最悪だったというだけの話。しかも視界が悪いなら、サインツの事故現場を通り抜けるには最大限の注意と安全を図っての走行義務がある。
どちらが危険? ドライバーか、それとも生身で回収作業をしているマーシャルか
かつてのビアンキの事故は悲しい結果をもたらした。二度とあってはならない事故だ。ガスリーがビアンキの事故に学んでいないと声高に叫んだことに、何人かのドライバーや多くのメディアが同調した。しかし、ビアンキのケースは残念ながら今回のガスリー同様、コーションの状況の中で遅れを取り戻そうと、レーシングスピードで走ったために招いた事故であった。だが人々はその点に目を向けることなく、まるでそこで作業をしていたローダーが悪魔であったかのように語り続ける。今回のガスリーも同様だ。
ドライバーは危険を語り、「その速度で当たれば自分たちの命が危ない」と叫ぶ。その通りだろう。しかしそうした危険と隣り合わせなのはF1ドライバーだけだろうか。SCコーションの中で出動が命じられ、ローダーを運転しているマーシャル、そして撤去作業にあたって生身で働く多くのマーシャルたちも同じではないか。もしそこに、SCやレッドフラッグを無視して時速200kmオーバーでマシンが突っ込んで来たら……。
考えてみてほしい。時速200kmオーバーでマシンが突っ込んだ際、より危険なのはモノコックの中にいるドライバーか、それとも生身で回収作業をしているマーシャルたちか。
マーシャルはレギュレーションに従い、RDの命令どおりに仕事をしているのだ、ビアンキの時も今回も。自分勝手なポジション争いでレギュレーションを無視し、多くのマーシャルたちの命を危険にさらした者は、真のレーシングドライバーではありえない。レースはドライバーやチームだけで成り立っていると思ったら大間違いだ。ボランティアで、そしてレースが大好きだからといって働くマーシャルたちがいなければ、F1レースなどスタートもできないことをドライバーは学ばなければいけない。
今回ガスリーが叫んだ“ビアンキの事故から何も学んでいない!”は、そのままガスリー自身に向けて言いたい言葉だ。
【画像ギャラリー】雨の開催となった日本GP。波乱のレースを制したのはレッドブル!(4枚)画像ギャラリー津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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コメント
コメントの使い方哲爺、よくぞ言ってくださいました。
おっしゃるとおりです。