日産黄金期の立役者 本山哲がGT500勇退!! 「平成最速の男」はいったいなにがすごかったのか?

■近寄りがたいオーラ、そしてレースを楽しむことを知る

2003年にR34 GT-Rがデビューするとミハエル・クルムと、翌2004年にはリチャード・ライアンと共にチャンピオンを獲得したが、当時のニスモのピットは非常にピリピリとした張りつめた空気があった。

それは本山の発するオーラのようなもののためだった。

もちろんニスモというチーム自体、監督からエンジニア、メカニック全員が勝ちにこだわるスタッフの塊のようなものであったが、本山を軸としてチーム全体が非常に良くまとまっていた。

近寄りがたい空気感を漂わせていた本山。それは勝つことだけを意識しているドライバーのオーラであり、ストイックに速さを求めていた証でもあった

セッションやレース後のコメントを取りに行く際もなかなか近寄りがたかく、こちらもかなり気を遣った思い出がある。

これは勝つことが義務づけられていたニスモの宿命だったのかもしれない。だから本山も何をどうすれば勝てるのかで頭がいっぱいになっていたのだろうし、楽しんでレースをしているような雰囲気ではなかった。

”勝たねばならない”と言うプレッシャーと戦っているように見えた。またそれが”ワークス的”で格好良かった。

2008年に5歳年下のブノワ・トレルイエと組んでからの本山は円熟味を増し、一発の力を持つトレルイエの兄貴分として、チームワークの良さを発揮していった。

その前の年まで速さはあるもののミスやクラッシュの多かったトレルイエも、本山からさまざまなものを吸収し結果に結びつけるようになった。

特にトレルイエの明るくいたずら好きな性格はチームのムードを和ませたし、本山も楽しそうな表情を見せることも多くなった。

そして2011年のオートポリスで本山は、とんでもないレースを展開する。予選でトレルイエがコースアウトを喫しタイムアタックができなかったために12位スタートとなった本山。

2011年のオートポリスでは11台を抜き去るという偉業をやってのけた本山。その鬼神のような速さは多くのファンに焼き付いており今でも語り草だ

しかし序盤の5周ほどでタイヤが温まるのを確認すると、そこから次々にライバル勢を抜き去り、中盤の26周目には11台を抜き去りトップに浮上するという素晴らしいパフォーマンスを見せた。

後半はトレルイエが後続を引き離して2勝目を挙げた。さらに続く最終戦でも優勝を果たして逆転チャンピオンを獲得した。

しかしトレルイエはこの2011年を最後に、アウディへ移籍。4年間で8勝を挙げたコンビが解消されることとなったのは残念だった。

本山は2012年限りでニスモを離れMOLAへ。そこでのパートナーは、関口雄飛、柳田真孝、千代勝正という若手たちだった。

そこでの本山は純粋にレースを楽しんでいるという感じを受けた。結果にはなかなか結びつかなかったが、時おり速さを見せファンを喜ばせた。

■突然のGT500引退と今後の本山哲の使命とは

2018年は千代と共にGT500クラスにステップアップしたB-MAXへ。

残念ながら思うようなパフォーマンスを残すことができず、シーズン終盤にはこのまま引退するのではないかという噂もあった。

しかし最終戦が終わってもそういう発言は一切なく、2019年もGT500を戦うものだと思っていた。

近年はレースを楽しんでいると感じさせる光景も多くなった。しかし全盛期のような速さを見かけることは減っていたのも事実だ。それでも時折見せてくれたファンも唸るような走りは多くの人の記憶に残ることだろう

2月9日の引退セレモニーでは、ずっと笑顔で涙など見せなかったが、本人はGT500を引退するだけでドライバーを引退したわけではないと言う。

今後は日産のエグゼクティブアドバイザーとしてGT全体を見渡し、ドライバー目線で発言をしていくことになる。

セレモニーでは「日本人の速いドライバーを応援し、発掘しサポートしていければという気持ち」と語った本山。

引退セレモニーにて最後のパートナーとなった千代勝正(中央)と握手する本山(右)。星野一義氏の豪快な笑顔が本山のGT500引退後の新たなステージへのはなむけのようだった

既に全日本カートではチーム・モトヤマとして活動し若手の育成を進めている。また年齢的にもまだまだドライバーとしても活動できるであろうし、本人のモチベーションが下がったわけではないだろう。

これからの日本のモータースポーツの発展のためにも、ぜひその持っている力やノウハウをレース界に注ぎ込んでいただきたいと願う。

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