■趣味だけでなく経営者として「ワクワクするものでなければ普及しない」と考えているはず
日本政府およびEU、アメリカ合衆国は、ともに2020年に「2050年のカーボンニュートラル社会(温室効果ガス排出ネットゼロ)」という目標を表明した。その目標達成へ向けて官民ともにさまざまな対策を打ち出しており、その柱のひとつに電気自動車(BEV)の開発、製造、販売や、普及促進のための多くの施策がある。
そのいっぽうで、今回豊田章男社長が語った「事実」とは、つまり「自動車から排出される温室効果ガスをゼロにする(すべての保有車、公用車がゼロエミッション車、BEVや水素エンジン搭載車になる)には、ある年から、仮に新型車販売がすべてBEVになったとしても、20年以上かかること」だった。
現時点でBEV普及にまつわる問題点(価格、税金、充電インフラ整備、製造工場ラインやバッテリー調達と廃棄、発電コスト、激減することになる雇用、降雪時の対応、ユーザーの意識などの問題)をすべて無視して、そのうえで全自動車メーカーが全力でBEVへシフトしたとして、そしてしかるべき時期に新車販売がすべてBEVになったとしても、2050年の期限にはとても間に合わない、ということだ。
だからこそ、どこかのタイミングで、誰かが本気になって「保有車のゼロエミッション化」へ取り組まなくてはならない(豊田社長が「カーボンニュートラル社会は、どれだけ頑張って進めても自動車メーカーだけでは達成できない」と繰り返すのは、こういう実情を踏まえてのこと)。
本企画取材担当編集者が、今回のスピーチで特に画期的だったと思うのが、「それをトヨタが本気でやると提案したこと」と、「その原動力を【クルマへの愛やワクワク感】としたこと」だった。
ガソリンエンジン搭載車にバッテリー+モーターユニットを換装して、EV化する会社やプロジェクトは、以前からあった。いくつかはそれなりに成功を収めたが、一般に普及しているとは言い難い。コストが高いし、それに見合うだけの成果(性能や満足度)を得ることが難しいからだ。
もちろん今回のトヨタの取り組みも、(あくまで「実験用」とあるように)企業として採算がとれたうえで一般ユーザーが満足できるレベルへ到達するには、ここからさらにいくつかのブレイクスルーが必要だろう。あくまで今後の方向性を示した、というところに留まっている。
それでもなお、たとえばモデル車両を白黒パンダカラーのAE86レビン/トレノに選んだことや、そのボディに「藤原とうふ店(自家用)」(『頭文字D』しげの秀一著)に模した「電気じどう車(実験用)」と表記した遊び心や、既存のユニットの載せ替えでなくマニュアルトランスミッションを残しながらBEV化したり、4AGをベースに(技術的なハードルが上がることを厭わずに、過給機を付けずNAのままで)水素エンジン化したり、クルマへの愛や楽しさ、趣味性を前面に打ち出しているところを、高く(そして嬉しく)評価したい。
それは豊田章男社長が、個人的な素養や趣味とはまた別にして、経営者としての分析のうえで「多くの人が、作り手と一緒になって、ワクワクしながら楽しめるものでなければ技術として一般に広く普及しない」ということを信じているからのように思える。
頑張ってください。自動車メーカーとクルマ好きを繋ぐ役割を持つ自動車専門メディアとして、この取り組みを強く応援しております。
東京オートサロンは幕張メッセ(千葉県)にて2023年1月15日(日)18時まで開催しております。参加予定の方は、東ホールトヨタブース奥の壇上にあるAE86レビン/トレノをぜひ直に確認してみてください。すごく綺麗に仕上がっていて、クルマにワクワクしていた「あの頃の気持ち」が思い出されてきて、「これが…未来か…」と、心の奥底が温かくなります。
【画像ギャラリー】AE86レビン/トレノ(BEV仕様と水素エンジン仕様)全画像!! 美しいです…元のクルマはどこから調達してきたんだ…(21枚)画像ギャラリー
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