■電脳の歌姫に「みっくみく」にされたBRIDEのシート職人
さていよいよ商品紹介を。
『初音ミク』といえば、日本国内はもちろん、海外でも多くの熱狂的ファンがいる電脳の歌姫。実は愛知県東海市にあるBRIDE本社の会議室には、かなり大きなサイズの初音ミク限定ドールが鎮座している。これは本企画が動き出す以前から、グッドスマイルレーシングとの関係でBRIDEへ「嫁入り」してきた娘なのだそう。
今回の「ミクシート」企画の発端となった関係者によると、このミクドールについて高瀬社長に「これは…?」と来歴を聞いた際、ほくほく顔で「かわいいでしょ♡」と言葉少なに応えたとのこと。この笑顔が、商品の企画書を出す一因だったとか。
そういう事情で上がってきた企画書を見て、痛車イベントへ自ら足を運んだ高瀬社長。質実剛健なBRIDEを一代で築いてきた高瀬社長は、「以前なら、このジャンルは僕たちが手を付ける場所じゃないと捨てていたでしょう」と話す。
しかし実際に自分で訪れた痛車イベントで、ファンのあまりの熱気と熱心さに心を打たれ、「BRIDEにとって新しいジャンルへの挑戦は明るい」と確信したそうだ。
「おもしろいことをやろう」と決まれば、さっそく「社内会議→ミクといえば谷口信輝選手→グッドスマイルレーシングへの接触」と動きも早かった。高瀬社長はSUPER GTの『グッドスマイルレーシング』ピットを訪れ、株式会社グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の安藝貴範氏へ面会。
初音ミクのライセンスをもつクリプトン・フューチャー・メディア株式会社との関係を取り持ってもらうかたちで契約を締結。2022年の春に始動した企画は、夏すぎの時点で普通なら半年以上は掛かるハードルをいくつもクリアしたそうだ。
当初は懐疑的だった社内の面々も、ライセンスなどが次々とクリアされるにしたがい、職人として(鉄火場に火種を入れるように)やる気になっていったのは自然な流れ。モータースポーツにおけるスポーツシート国内装着率シェアNo.1メーカーであるBRIDEの、プロフェッショナルの仕事が「キャラクターの描かれたシート」へ融合していくのだった(開発のうえでは技術的な制約などで大きな苦労があったそうだが、それはまた本稿最後にお話しするとしよう)。
■「初音ミクを踏みつけるわけにはいかない!」デザインの苦悩
「ミクシート」には、2022シーズンの『RACING MIKU』、イラストレーターneco氏によるGOODSMILE RACINGの大きなフラッグをもつキービジュアルが採用された。スポーティさとともに、なびくフラッグの軌跡がドラクロワの『民衆を導く自由の女神』を髣髴とさせる力強さをもったデザインだ。
素体となった『BRIDE EUROSTER II』はコンフォートモデルのセミバケットシートで、バケットシート慣れしていないユーザーでもロングドライブで疲れない上位モデル。シートをしっかり背中から女神に守られている感じで、どこまでも走っていけそうな勇気を貰える。
東京オートサロンのカンファレンスで、谷口信輝選手は「シートの座面(表面)にミクちゃんがいたら、背中で踏んじゃうことになるわけでしょ。ファンの皆さんからは見られてますから、そういうの全部!(「だから、このシートは背面にデザインされていてありがたい」という意味)」と、会場で笑いを誘った。
実際これは単なる笑い話で収まる話でもなく、座面にキャラクター画を印刷すると、当然(摩擦により)劣化も激しい。BRIDEとしては「正しく座ってもらうこと」で真価を発揮する商品なわけでもあり、何よりキャラクターへの愛として座面への配置デザインは早々に却下されたという。結果として「背中からドライバーとクルマを護ってもらうイメージ」で、シート背面への配置に落ち着いたそう。
またBRIDEの商品はクルマ専用というわけではない。同日発表された『SDGsコンセプト STREAMS』と同様、別売のキャスターに取り付けることで室内用のデスクチェアや座椅子としての使用も可能だ。
Youtube配信などでこのミクシートを使ってもらい、配信者が休憩の際にはクルっと椅子を回して「背中のミクちゃんに配信のアシスタントしてもらう」なんていうのも贅沢な演出かもしれないぞ。
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