真っ赤なファミリアはどのようなクルマだったのか?
しかも残念なことに、私はこの5代目ファミリアに乗ったことがない。いったいどういうクルマだったのか。
マツダのHPの『マツダの名車たち』というコーナーには、次のような記述がある。
「駆動方式はファミリア初のFFとしつつも、チェンジフィーリングはFR並みのダイレクトさを追求。
ハンドリングはシビック以上の切れ味を、シートはリビングのソファーのような快適性を目指した。
操安性に優れる独創的なSSサスペンションをはじめ、左右二分割で前方へ折り畳め、リクライニングの角度調節もできる機能性に優れたリアシートを採用。5代目ファミリアはまさに狙い通りの革新的なクルマに仕上がった」。
実際のドライブフィールをかつてのオーナーのみなさんに尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「速くないけど、エンジンは気持ちよく回るし、サンルーフ(XGに標準装備)が気持ちよかった」、「乗りやすくてエンジンも軽く、マツダの最高傑作と思ってます」、「重ステでしたが、ハンドリングは最高でした」、「パワーはないけど、下り坂ではゴルフGTI気分」。
モータージャーナリストの中谷明彦氏は、なんと意外なことに、5代目ファミリアを2台乗り継いだという。
「父親が最初に赤を買って、シルバーが出たので大学生の時に自分で買った。抜群のハンドリングで、電動サンルーフ標準装備で後席ユーティリティも優れていて、当時ギャル人気が高かった。
津々見友彦さんが輸出用ドラミラーを商品化して、僕も付けてたよ。ドレスアップパーツも山ほど出て、カタログ本ができたほどだった」(中谷氏)。
全日本チャンピオンのレーサーがそう言うんだから間違いなかろう。5代目ファミリアは、ハンドリングと実用性を兼ね備えつつ、比較的安価(1500XGが103万8000円)で、しかも女性にもモテたクルマだったのである! 安くてオシャレでモテるクルマなんて、このファミリア以来あっただろうか。
中古車市場ではほぼ絶滅してしまった
そんなすばらしい5代目ファミリアだが、いま中古車サイトを検索すると、全国に2台。真っ赤なファミリアは全国にたった1台だけだった。
その個体は1981年式のXL、走行距離1.5万kmで144万円。もう1台はホワイトのボディカラーで、1984年式のグランドエクストラ、走行距離3.1万km、80万円だった。
名車といわれる多くの絶版車が価格を高騰させているなか、5代目ファミリアはそこにたどり着く前にほぼ絶滅してしまったようだ。いったいなぜだろう。
あくまで想像だが、当時あまりにもブームになったことが、マイナスに作用した面はあるのではないか。
私の印象では、真っ赤なファミリアは「ミーハーなクルマ」である。「真っ赤なファミリア」という語感も、ブームが進むにつれ微妙に恥ずかしいものになり、6代目にバトンタッチしブームが去ると、安くて数の多い中古車として、ひたすら消費された。
若者に大人気だったため、多くの個体が酷使されもした。1980年代のヤングたちは、5代目ファミリアで徹夜で峠を攻めたり、海へ山へとあらゆるところへ出かけた。そうやって使い倒してこそ価値のあるクルマだったが、多くが最後にはボロボロになった。
5代目ファミリアを大切に乗り、下取りが0円になっても大事に保管し続けた余裕のあるオーナーは、多くはなかったのだろう。
今でこそ、5代目ファミリアが街を走っていたら、「おおっ! 懐かしい~~!」と中高年は色めき立つが、それはあのクルマが、青春の消費物だったからだ。クルマとしては、それはそれで大変幸せな生涯だったのではないでしょうか。
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■5代目マツダファミリアXG 主要諸元
・全長×全幅×全高:3955×1630×1375mm
・ホイールベース:2365mm
・車両重量:825kg(MT)
・エンジン:1490㏄、直4SOHC
・最高出力:85ps/5500rpm
・最大トルク:12.3kgm/35000rpm
・サスペンション前/後:ストラット/ストラット
・タイヤサイズ:175/70R13、ポテンザRE86
・価格:103万8000円
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