祝トライトン 2024-2025 デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー受賞! 三菱デザイン評価急上昇の秘密と実力

祝トライトン 2024-2025 デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー受賞! 三菱デザイン評価急上昇の秘密と実力

「日本カー・オブ・ザ・イヤー2024-2025」において、デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した三菱自動車の「トライトン」。そのデザインを手掛けたのが、三菱自動車デザイン本部プロダクト・デザイン・ダイレクターの吉峰典彦氏だ。これで三菱自動車は昨年度のデリカミニに続き二年連続デザイン賞受賞となった。なぜトライトンのデザインは高い評価を受けたのか? そして三菱デザイン進化の勝因とは? 吉峰氏にここ最近の「三菱らしいデザイン」や、百年に一度の変革期におけるデザインの狙いについて話をじっくり伺いました。

文:ベストカー編集部、写真:佐藤正勝

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「三菱らしいデザイン」とは?

ベストカー編集局長・寺崎彰吾(以下、寺崎):まずはトライトンでのデザイン・カー・オブ・ザ・イヤー2024-2025受賞、おめでとうございます。

三菱自動車デザイン本部プロダクト・デザイン・ダイレクター吉峰典彦氏(以下、吉峰):ありがとうございます。

寺崎:2023年7月にタイで発売され、同年12月に日本でも発売されたトライトンは、日本のみならずドイツやベトナムでもデザイン賞を受賞するなど国内外で高く評価されています。国内向けと国外向けで、デザイン的な「評価の違い」ってあったのでしょうか?

吉峰:はい、ありました。たとえば日本では「力強さと機能美の融合」が評価されましたが、ドイツではバウハウス的な「機能に基づいたデザインの純粋さ」が重視されました。一方でオーストラリアや中南米では「ライフスタイルに寄り添う実用性」がポイントになりました。ただ、どの国でも共通していたのは「三菱らしさ」への評価です。

三菱自動車トライトンは日本カー・オブ・ザ・イヤー2024-2025にてデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。三菱自動車は昨年度のデリカミニに続き二年連続のデザイン賞受賞となった
三菱自動車トライトンは日本カー・オブ・ザ・イヤー2024-2025にてデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。三菱自動車は昨年度のデリカミニに続き二年連続のデザイン賞受賞となった

寺崎:「三菱らしさ」、最近話題ですよね。吉峰さんが考える、あるいは三菱自動車デザインチームが考える「三菱らしさ」って、具体的にどういったものですか?

吉峰:これは弊社の渡辺本部長(渡辺誠二氏/三菱自動車デザイン本部長/執行役員)が言語化してくれて、我々も大切にしているところなのですが、「格・鍛・純」という三菱デザインの哲学が核にあります。

格(かく):力強さや象徴的なデザイン、堂々としたプロポーション
鍛(たん):高い走破性、安定した動力性能、筋肉質でたくましい車体
純(じゅん):機能美を追求したシンプルなデザイン、本物感

 この哲学は、単なるビジュアルの美しさではなく、クルマが持つ個性や使命をデザインで表現するという意味を持っています。

寺崎:ふむ、この3つの哲学が、ここ最近の三菱車のデザインの根底にあるわけですね。

近年の三菱自動車のデザインチームが「哲学」として重視する3つの概念、「格、鍛、純」
近年の三菱自動車のデザインチームが「哲学」として重視する3つの概念、「格、鍛、純」

吉峰:指標として明確に意識されていて、たとえばデザインスケッチを本部長のところにもっていくと「これは【鍛】が足りていないんじゃないか」と言われたりします。確かに…と思って筋肉質なイメージを強化したりするわけで、(デザインチームの)コミュニケーションワードになっています。

寺崎:この価値観というか哲学は、今後でてくる三菱車にも貫かれているのでしょうか?

吉峰:もちろんです。我々自身「三菱らしさってどういうところだろう」とずっと考えています。もちろん自動車ですから、環境、安心、安全、快適という価値観があり、「冒険心を呼び覚ます心豊かなモビリティライフを提供する」という大テーマがあって、そのうえでプロダクトアウト、「こういうところが三菱自動車らしくていいと思うんですが、どうですか」とお客様へ提案する、と。もちろん使い勝手や強靭性などにとことんこだわったうえで、ですね。

寺崎:「冒険心を呼び覚ます」……ですか。

吉峰:はい、「冒険心をかきたてろ」と言われるわけです。…むずっ! って思いますよね(笑)。でも確かにそれって「三菱らしさ」の根源的なものだよなとも思うんです。私たちが子供の頃の三菱自動車といったら、パジェロがあって、デリカがあって、ギャランがあって、ランタボ/ランエボがあって、「それって全部、冒険だよな」と思うんですよ。

寺崎:たしかに。トライトンのデザインで、特にこだわったところ、見てほしいポイントなどはありますか?

吉峰:高度成長期以降、ピックアップトラックがそれほど話題にならない中で、ライフスタイルに余裕のある方が一般の中でも出てきて、「仕事ばかりでなく生活を楽しみたい」という方にはこのトライトンのような、荷台があって、キャビンもあって、というクルマはほかにないと思うんですよ。だからこそ(荷台とキャビンがしっかり見える)サイドビューはしっかり作り込んで、力強く美しく見えるように仕上げてあります。

力強く、スタイリッシュで、使い勝手も高い。そのうえで走破性にはいっさい妥協が許されない、という高度なバランスを求められたピックアップトラックのデザイン。サイドフォルムは最もこだわった点のひとつだそう
力強く、スタイリッシュで、使い勝手も高い。そのうえで走破性にはいっさい妥協が許されない、という高度なバランスを求められたピックアップトラックのデザイン。サイドフォルムは最もこだわった点のひとつだそう

「ピックアップトラックのデザイン」に求められたもの

寺崎:先ほど仰っていたとおり、トライトンが属する「ピックアップトラック」というカテゴリーは、現代の日本ではどちらかというとニッチなジャンルだと思うのですが、それで苦労した点や気をつけたところはありますか。

吉峰:ピックアップトラックは1980年代に日本でも大きなブームを巻き起こし、私はその頃は小学生だったんですが、子供心に「すごいなあ、かっこいいなあ」と思っていました。今でも私はサザンオールスターズが好きで、今度、妻とコンサートへ行くんですが、サザンの全盛期って、音楽でも文化でも、それこそクルマでも、「これから日本はどんどん上がっていくんだ、よくなっていくんだ」という勢いがありましたよね。あの頃と同じように……とまでは思いませんが、ああいう勢いに近いものをデザインで成し遂げられたら、とは思っています。近年、日本でもアウトドア需要が高まり、若者を中心に、ライフスタイルを重視するユーザーが増えていると感じています。そういう時代の勢いみたいなものがあるので、こういう(トライトンのような)ピックアップトラックが受け入れられる素地もあると思うんです。

寺崎:サザンの勢いをトライトンのデザインで。

吉峰:そういう気持ちで。それと、週末にこのトライトンに乗って街中を走ると、周囲からすごくよく見られるんですよ。

寺崎:めちゃくちゃ目立ちますよね。

ライト回りもこだわった点。荒々しさとスマートさを両立させていて、ライトとしての性能を最大限発揮させるデザイン
ライト回りもこだわった点。荒々しさとスマートさを両立させていて、ライトとしての性能を最大限発揮させるデザイン

吉峰:先日(タレントの)ヒロミさんにカスタマイズをお願いしたモデルを(東京オートサロン2025で)出展したんですが、トライトンのようなクルマって、乗り手の「強い個性」を反映させることができるんです。つまり、実用性だけでなく、クルマそのものが「自己表現のツール」になり得ると。

 特に注目されたのが、アウトドアやマリンスポーツを楽しむユーザーのためのデザインです。トライトンは、荷台の使い勝手や耐久性だけでなく、どんな環境でもスタイリッシュに映えることを意識しています。

寺崎:オーストラリアや中南米では「人生を楽しむクルマ」として受け入れられたとも聞きました。

吉峰:はい。彼らにとってピックアップトラックは「日常の延長」なんですよね。クォリティーオブライフという言葉がありますが、たとえばオーストラリアでは日本に比べて「ライフ」の部分がすごく強い。週末には荷台にキャンプギアやジェットスキーを積んで出かける。そうした使い方に応えるデザインが求められました。また、オーストラリアではメインのセダンと並ぶ「2台目のクルマ」として位置づけられることも多く、実際にトライトンのオーナーたちは、荷台に自転車を積んでクロスカントリーを楽しむなど、多彩なライフスタイルを持っています。

 今回のトライトンのインテリアでは「ホリゾンタルアクシス(水平基調)」のデザインコンセプトを採用し、直感的に操作しやすいレイアウトを実現しました。内装も、全体的に「碁盤の目」のように整理され、どんな状況でも直感的に操作できるよう配慮されています。

トライトンの内装。悪路走破時にも操作しやすいよう、「使いやすさ」に最大限配慮されたデザイン
トライトンの内装。悪路走破時にも操作しやすいよう、「使いやすさ」に最大限配慮されたデザイン

寺崎:トライトンだと、整備した高速道路も走るし、ジャングルや沼地、砂漠みたいなところも走るわけですよね。ユーザーのニーズに応えるのって大変じゃないですか?

吉峰:そうなんですよ……デザイナーとしては、やっぱりタイヤを大きくしてボディを低くして、ホイールハウスの間を狭めて…、ってオーソドックスな「クルマとしてのカッコよさ」を求めたくなるんですけど、そういうデザインにすると社内から「おまえこんなんじゃ腹(フロア)が当たって走れないだろ」と責められるわけです。やっぱりそこはちゃんと、どんな道でも走って帰ってこれるように作らなきゃいけない。

寺崎:悪路走破性に資するデザインにしなきゃいけないわけですね。

吉峰:そういうところ、ウチの会社は真面目なんですよね。他メーカーさんに比べると開発チームがコンパクトだからというのもあるんですが、デザインチームのデスクの近くに実験チームがいて、何十時間、何百時間とテストでハンドルを握っている人から「これじゃダメ、お客さんに出せない」と言われると、簡単には反論できません。スイッチ類にしても「ここにあると、運転中にGがかかったときに手が届きづらいよ」と言われて、直したあとで自分で中東とかで運転させてもらったら、「あ、本当だ、(ドライバーの)近くに置いておいてよかった」と思ったことがありました。

「クルマとしてのカッコよさ」を重視するなら車高や重心を下げたくなるが、アプローチアングルやデパーチャーアングルに妥協が許されず、さすがパリダカ常勝を経験したメーカーであり、パジェロのDNAが注ぎ込まれたクルマ
「クルマとしてのカッコよさ」を重視するなら車高や重心を下げたくなるが、アプローチアングルやデパーチャーアングルに妥協が許されず、さすがパリダカ常勝を経験したメーカーであり、パジェロのDNAが注ぎ込まれたクルマ

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