トヨタは「トランプ関税」に苦悶せず、空飛ぶクルマで世界を目指せ!

トヨタは「トランプ関税」に苦悶せず、空飛ぶクルマで世界を目指せ!

「2025年3⽉期の営業利益は4.8兆円で、未来に繋がる総合投資や⾜場固めを進めながら、価格改定効果やバリューチェーン収益の拡⼤などにより、⾼⽔準の利益を確保できました」

 2025年5月8日、トヨタ自動車の2025年3月期決算発表会が行われ、佐藤恒治社長がこう述べた。

文:近藤大介(講談社『現代ビジネス』編集次長)/画像:トヨタ、上海车展 2025

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■自動車関税は下がるのか? それとも……?

 トヨタ自動車の昨年度(2025年3月期)1年間のグループ全体の決算は、売り上げにあたる営業収益が、前年度より6.5%増えて48兆367億円と、過去最高を記録した。グループ全体の販売台数も1101万台と、世界ナンバーワンをキープ。もちろん売上高、営業利益ともに、日本企業の中で断トツだ。

 だが、会見中の佐藤社長の表情に、笑顔は少なかった。それというのも、4月3日から、アメリカに輸出する日本車に、25%もの「トランプ関税」がかけられているからだ。

5月8日に都内で実施されたトヨタの2025年3月期決算記者会見。前期は営業利益4.8兆円で、今期(2026年3月期)は3.8兆円と減益を見込むも、「まだじたばたする状況ではない」(佐藤社長)と語った
5月8日に都内で実施されたトヨタの2025年3月期決算記者会見。前期は営業利益4.8兆円で、今期(2026年3月期)は3.8兆円と減益を見込むも、「まだじたばたする状況ではない」(佐藤社長)と語った

 トヨタは昨年、約53万台の自動車をアメリカへ輸出した。これは昨年トヨタがアメリカで販売した約233万台のうち、約23%に相当する。

 そのため、日本国内では早くも不安が広がっている。『毎日新聞』(5月8日付)は、「草むしりする社員も? トランプ関税でトヨタ系中小が抱く懸念と不満」と題した長文の記事を掲載した。

 佐藤社長も、今期(2026年3月期)の業績見通しについて、「⽶国の関税影響について、4月分と5⽉分の影響⾒込みのみ、マイナス1800億円を暫定的に織り込みます」と説明した。そして「それ以降は不透明」とした。

 この会見の約1週間前、ワシントンで日米による2回目の貿易交渉が行われた。2時間あまりにおよんだ交渉を終えた赤澤亮正経済再生担当大臣は、「非常に突っ込んだ話ができ、前進することができた」と胸を張った。

 だがアメリカ側は、「自動車は協議の対象外」と説明した。「日本と交渉するのは、相互関税上乗せ分の14%についてのみ」というのだ。

 いったいどういうことなのか? 日米関係に詳しい自民党議員に聞くと、「あくまでも個人的観測だが」と断りながら、こう答えた。

「日米の話に齟齬があるのは、アメリカ側が正しいだろう。石破政権としては、『自動車は協議の対象外』などといま発表したら、7月の参院選がもたなくなる。

 そこで『自動車については現在交渉中』としながら、アメリカとの交渉をズルズルと進め、参院選をまたぐように持っていくだろう。その間に、『自動車は協議の対象外』となった時への対策を、粛々と用意していく」

 5月1日夜、石破首相は緊急で、都内のホテルでトヨタの豊田章男会長と面会している。その際、この議員が語るような事情を、豊田会長に告げた可能性がある。二人は慶応高校、慶応大学時代からの知己。そうであれば、8日の佐藤社長の表情が冴えない理由も納得がいく。

■上海モーターショーの中心は「空飛ぶクルマ」

 ところで、「中国ウォッチャー」である私は、トヨタの中国市場での動向も気になる。8日に発表された決算を細かく見ると、昨年の新車販売台数3143万台という世界最大の自動車市場(日本は442万台)である中国事業において、営業利益は前年度の1956億円から1827億円と落としている。投資損益も、前年度の2689億円から1069億円へと半減以下だ。トヨタはその理由を、「販売面での影響など」と説明した。

トヨタの決算資料。中国事業は販売台数で190.2万台→178.9万台と減少、営業利益は1956億円→1827億円に、投資損益は2689億円→1069億円となった
トヨタの決算資料。中国事業は販売台数で190.2万台→178.9万台と減少、営業利益は1956億円→1827億円に、投資損益は2689億円→1069億円となった

 実際、ここのところのトヨタは、中国では「値引きのトヨタ」と揶揄(やゆ)されている。現在、中国市場は値引き合戦の様相を呈しているが、とりわけトヨタは必死なのだ。例えば昨年9月16日には、メジャーなネットの自動車メディア「易車」に、「白菜の価格でトヨタが襲来 ライバルは夜も眠れず」と題した記事が出たほどだ。

 こうした販売努力が功を奏して、トヨタは直近の3月の中国市場での売り上げが、前年同期比17.3%増の15万5100台と、復調を果たした。だが最大のライバルであるBYD(比亜迪)は、前年同期比23.1%増の37万1419台で、トヨタはその半分にも届いていない。

 4月23日から5月2日まで開かれた「上海モーターショー」(第21回上海国際汽車工業展覧会)でも、「主役」は完全に中国メーカーだった。

 前回、2年前の上海モーターショーでは、「EV(電気自動車)にあらずんばクルマにあらず」というほど「EV時代到来」を見せつけた。そのため、ガソリン車を得意とする日本メーカーは、すっかり「脇役」と化してしまった。

 それが今回、中国メーカーの話題は、EVから「空飛ぶクルマ」に移っていた。中国の大手メーカーは、EVでなく空飛ぶクルマを、自社のブースの中央にデーンと展示していたのだ。

 例えば、小鵬汽車(Xiaopeng)の「陸地空母」。この大仰な車名の空飛ぶクルマは分解式で、飛行機本体と、「陸地母艦」とに分かれる。飛行機本体は、着地時に両翼を折りたたみ、陸地母艦の後部に収納できる。何だか映画「007」でジェームス・ボンドが乗るクルマのようだ。

小鵬汽車(Xiaopeng)の「陸地空母」(写真右)。飛んでいる小型ヘリが車体後部に収納される。写真左も空飛ぶクルマで、こちらも地上走行時はプロペラが収納できる
小鵬汽車(Xiaopeng)の「陸地空母」(写真右)。飛んでいる小型ヘリが車体後部に収納される。写真左も空飛ぶクルマで、こちらも地上走行時はプロペラが収納できる

 小鵬汽車が2体式なのに対し、奇瑞汽車(Chery)の空飛ぶクルマは3体式で、座席が外せるようになっている。3体式にすることで、それぞれのイノベーションに応じて、新式に切り替えていけるというわけだ。すでに「航続80km以上の安定飛行実験」に成功したという。

 福建省寧徳に本社がある寧徳時代(CATL)の展示ブースにも、中心にホワイトボディの空飛ぶクルマ「eVTOL」が鎮座していた。全長12m、両翼の長さは15mで、2tの重量を搭載できるという。

「CALT」といえば世界最大の電池メーカー。そこが上海ショーで「空飛ぶクルマ」を大々的にアピールした
「CALT」といえば世界最大の電池メーカー。そこが上海ショーで「空飛ぶクルマ」を大々的にアピールした

 同社は自動車メーカーではなく、EVに使うリチウム電池などを生産する世界最大の電池メーカーである。世界の新車における昨年のシェアは、実に37.9%に達した(SNEリサーチ発表)。

 寧徳時代としては、近未来にEVが空飛ぶクルマに取って変わろうとも、電池が「クルマの命」であることに変わりはない。そのため「寧徳時代」は続いていくと見ているのだ。

 私は空飛ぶクルマの「萌芽」を、コロナ禍の前に、香港に隣接した経済特区の深圳(しんせん)で見た。世界最大のドローン企業であるDJI(大疆創新)の様々なドローンを目にして、同社幹部と会食した際、次のように言われたのだ。

「いまは朝出勤する際、玄関を出て、駐車場の車に乗って行きますよね。それが2040年頃になると、家の玄関はベランダに変わります。朝起きて、窓を開けてベランダに出て、そこに置いてある小型の空飛ぶクルマに乗って飛び立って通勤するというわけです」

 この話を聞いて、ドラえもんのタケコプターを連想した。同時に、ドラえもんは22世紀からやって来たが、21世紀の前半にそのようなことが実現するのかと、半信半疑でもあった。

 ところが中国は、おそらく世界で最も急速に、空飛ぶクルマの開発を進めている。それは今年3月5日、全国人民代表大会(国会)の「政府活動報告」で李強首相が唱えた「AI+」(AIを使った発展的イノベーション)という方針に基づいたものだ。すなわち、NEV(電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車の新エネルギー車)と人型ロボットと空飛ぶクルマを、ともに「AI技術の発展形」と捉え、一直線上に開発していくのだ。

次ページは : ■トヨタには「空飛ぶクルマ」への夢がある

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