WEC 第4戦 ル・マン24時間でクビサが魅せてくれた栄光 競技主義の先にある価値

WEC 第4戦 ル・マン24時間でクビサが魅せてくれた栄光 競技主義の先にある価値

 世界三大レースの1つとも言われるル・マン24時間レース。2025年はAFコルセの83号車と51号車がそれぞれ1位、3位を獲得。ポルシェは2位という結果に。一方、トヨタ勢の苦戦もあってか、レース期間中はBoPの話題が特に多かったように思われる。だが、今回のル・マン24時間はそうした問題やリザルトの数字を超えた栄光を見せてくれるものだった。

文:段純恵/画像:フェラーリ、トヨタ

【画像ギャラリー】83号車のイエローボディに汚れが映える! これぞ激戦の証…… 耐久レースって単純な順位以上の感動があるよね(8枚)画像ギャラリー

BoPというジレンマ、必要悪

3位を獲得した51号車。4位であった50号車失格に
3位を獲得した51号車。4位であった50号車失格に

 今年の世界耐久選手権WEC第4戦ル・マン24時間レースは、雨も降らなければ気温の乱高下もない安定した天候のおかげで落ち着いた一戦となった。波乱の少ない展開を退屈に感じる観客もいたようだが、その要因は天候以外にも考えられる。開幕直前に発表されたル・マン限定の性能調整、BoPだ。

 毎年ル・マンでは一戦限りのBoPが適用されている。第3戦までの結果を参考にするしないに関係なく、数値の計算根拠が公表されないあたりがなかなかブラックだ。

 『すべての参加車に勝利のチャンスを』という美名のもと導入されているBoPだが、賛否両論、いや恐らく否定意見のほうが多かろう。しかし2012年のWEC新装開店以来、一時はアウディ、トヨタ、ポルシェの戦いで盛り上がった最高峰クラスが、2016年ポルシェ撤退後は閑古鳥状態となった。その結果としてLMP1のトヨタとLMP2のプライベーターたちの混走に「マズいんじゃね?」と思っていた筆者は、BoPとはWECがメーカーを耐久レースに呼び込むための苦肉の策であり、カテゴリー存続のための『必要悪』と捉えて納得している。

レースに波乱は起きず、されどBoPへの懐疑は生じる

一時は首位も走った8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)。トラブルで順位を落とすも、それがなくとも直線でフェラーリについていける雰囲気ではなかった
一時は首位も走った8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)。トラブルで順位を落とすも、それがなくとも直線でフェラーリについていける雰囲気ではなかった

 とは言うものの、今年のル・マンBoPについては『計算を間違えましたか?』と首を傾げたくなった。参加者全員にチャンス・カードが配られているように見えてその実、チャンスがあるのはフェラーリとポルシェだけ。その他大勢は『波乱が起きたら表彰台に上がれるかもね』という数値だったからだ。

 実際、レースは二日目の太陽が昇りきった頃には優勝争いはフェラーリとポルシェに絞られていた。トヨタも8号車がトップ5内で踏ん張り、7号車もジワジワ順位を上げていたものの、ドライバーが目一杯の走りで跳ね馬のスリップストリームに入ってもスィーっと先に行かれてしまうのだからお手上げという他ない。ポルシェもフェラーリ相手に苦戦してはいたが、さすがに直線でスリップについて抜けないということはなかった。

 それを見て、フェラーリの直線でのバカっ速さが今回のBoPの真の目的だったのか!? という妄想が脳裏をよぎったのは筆者だけではなかったと思う。かといってル・マンやWECを『政治的』とか『下らない』とか果ては『トヨタはこんなレースから撤退しろ』という極端な意見に与する気にはなれない。

 政治的というならF1のほうがもっとドロドロしていたし、BoPに操作されているように見えるからといってル・マンを下らないというのは、勝敗にのみ価値を置く考えがそのベースにあるように思える。

不撓不屈のドライバーが手にした勝利

表彰台の真ん中でトロフィーを掲げるクビサ
表彰台の真ん中でトロフィーを掲げるクビサ

 今年のル・マンを制したのはフェラーリのカスタマーチームの83号車で、3人のドライバーの一人はあのロバート・クビサだった。

 筆者にとってクビサは尊敬する数少ないドライバーの一人だ。F1で初めて見た時からとにかく速かった。そしてミスをしなかった。デビュー3戦目のモンツァの予選で、ピットアウトを側で見たのが筆者にとっての『初』クビサだったが、周囲の空気をも一瞬で自分に引きつける集中力は、K・ライコネンやF・アロンソのそれと同じだった。

 決勝で3位になったのもまぐれではないと確信したし、レース後の会見で(一度目の)引退を表明したM・シューマッハーの話に、ちょっと困ったような、でも隠しようのないシンパシィを感じさせる表情でじっと耳を傾ける若者に興味と好感を持った。

 その後の活躍、そして彼を襲った悲劇について詳しい説明はいらないだろう。2011年にラリーで大事故に遭わなければ移籍先のフェラーリで王座を争っただろうにと何度想ったかしれない。命が危ぶまれる状況から回復し、絶望の淵から這い上がったクビサが事故から1年9ヶ月後、ラリーで競技活動を再開した時はその勇気と闘志と胆力に驚きしかなかった。

 2019年F1に復帰したが、様々な事情も絡んで2021年9月に初表彰台の地モンツァでF1から引退。その半月前にはLMP2クラスからル・マンに初挑戦したが、先頭を走っていた最終周にマシントラブルが発生してクラス優勝を逃すという苦過ぎる経験もしている。

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