これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、「SMALL MAX」シリーズ第2弾として誕生したホンダの小型ミニバン、モビリオを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/ホンダ
【画像ギャラリー】独自の個性と実用性の高さで売れ筋ミニバンの一角に名を連ねたモビリオの写真をもっと見る!(7枚)画像ギャラリー開発テーマ「S・U・U」に込められた独自の思想
2000年代初頭、ミニバンの人気はピークを迎え、トヨタ ノア&ヴォクシー、日産 セレナ、ホンダ ステップワゴンといったMクラスの売れ筋モデルに加え、それらよりひとまわり小さいコンパクトクラスも充実していた。
そんな状況のなか、ホンダが2001年12月に市場へ導入したのが、今回クローズアップするコンパクトミニバン「モビリオ」だ。同車は、革新的な「グローバル・スモールプラットフォーム」と新世代「i-シリーズ」エンジンを中核技術とする「SMALL MAX」シリーズの第2弾として登場した。
クルマを生活のツールとして使いこなしたいと考えるユーザーニーズに応えるべく「デイリーデザイン」を開発コンセプトに掲げ、生活道具としての機能性と日常の利便性を最大化するパッケージングを実現していた。
モビリオの開発テーマは、「S・U・U」という3つのキーワードに集約される。「S」=スマート・パッケージ:コンパクトなボディながら、余裕の室内空間を確保すること。「U」=アーバン・スタイル:洗練された都会的デザインに機能美を融合。「U」=ユースフル・ファンクション:運転しやすく快適な装備と、低燃費による経済性を両立すること。これらのコンセプトは、いずれもホンダ独自の新技術によって具現化された。
なかでも、ミニバンにとって必須となる居住性や実用性を支えるパッケージングについては、革新的な「グローバル・スモールプラットフォーム」の採用が絶大な効果をもたらし、室内長2435mm、室内高1360mmという、クラスを超えた広さを生み出している。
特筆すべきは、燃料タンクを1列目シート下に配置するセンタータンクレイアウトの採用だ。これにより3列目シートでも足もとが低く、大人がしっかり座れる居住性が確保された。さらに、3列目は2列目シート下へすっきりと格納でき、格納時には579L(FF車)もの大容量ラゲッジスペースが広がる。
背の高い荷物や、約2.6mの長尺物の積載に対応する多彩なシートアレンジは、日常からレジャーまで幅広く使い倒せる。また、2列目シートは最大260mmのスライド機構を備え、乗員の足もとスペースや荷室容量を柔軟に調整可能。都市型ミニバンとしての機動性と、ファミリーカーとしての実用性を高次元で両立させている。
ヨーロッパの近未来型路面電車がモチーフ
モビリオは、都市部での使いやすさを追求したスマート・オープンドア設計が採用されている。フロントドアには、上部が大きく斜めに開く前傾ヒンジドアを導入。開口角度は3段階に設定され、駐車場や路肩など限られたスペースでもスムースに乗り降りできる。
後席には左右両側スライドドアを備え、地上高405mm(FF車)という低床フロアと組み合わせることで、3列目シートへのアクセスやチャイルドシートの着脱も容易にした。
さらに左側スライドドアには、給油口を開けた状態で約300mmの開口位置で停止するストッパー機構を搭載し、給油時の安全性と利便性を確保している。
リアゲートは大きな開口部と495mm(FF車)の低床設計を組み合わせ、重い荷物やかさばる荷物の積み込みを容易にした。日常の買い物から週末のアウトドアまで、さまざまなシーンでその利便性を実感させてくれた。

内外装デザインは、当時市販されていた国産コンパクトミニバンのなかでも際立って個性的だった。外観は、従来の乗用車デザインで重視されてきた「流れ」や「勢い」といった造形概念からあえて離れ、ヨーロッパ各都市で活躍する近未来的な路面電車「ユーロトラム」をモチーフとした独創的なバーチカルエモーションデザインを採用した。
垂直と水平を基調に構成されたボディは、大きなグラスエリアと直線的なラインが印象的で、乗降性や視界の良さ、室内空間の広さといった機能をそのまま形にしている。
フロントまわりは、大型ヘッドライトがショートノーズの造形を引き立て、堂々とした存在感を演出。半球状のサイドターンランプは、相手車両からの高い視認性を確保しつつ、親しみやすいフロントマスクを形成している。
左右両側スライドドアを採用したサイドビューは、都市部での使い勝手のよさを感じさせる。狭い駐車環境でも乗降がスムースに行える構造としながら、大きなガラス面積と直線的なシルエットが、室内の広さと開放感を視覚的にも訴える。
リアまわりは低床トールボーイならではの大型ゲートが印象的だ。バンパー直上から大きく跳ね上がる開口構造によって荷室へのアクセス性を高め、日常の買い物からレジャー用品まで幅広い積載ニーズに対応している。
室内は、大きなグラスエリアが生み出す圧倒的な開放感が特徴だ。ドアガラスの下端位置を低く設定することで、小さな子どもでも外の景色を存分に楽しめるパノラマキャビンを実現。広い視界は、乗員全員のドライブ体験を豊かにし、都市部からロングドライブまで快適な移動空間を提供する。
シートには、身体になじみやすくシワになりにくいシート地接着成形シートを採用。長時間のドライブでも快適性を維持し、日常使用での耐久性にも優れる。質感と実用性を兼ね備えたこの素材選びは、ファミリーカーとしての信頼性を高めている。
日常運転での安心感と扱いやすさも追求している。高めの着座位置と大型三角窓、そして下端を低く設定したワイドなウインドウガラスによって、前方はもちろん左右や斜め後方まで広がる全方位の視界を確保。さらにコンパクトなボディと四隅に配したタイヤレイアウトが、狭い街なかの曲がり角や縦列駐車といったシーンでも軽快な操作性を発揮する。








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