日産 ステージア260RSはGT-Rの技術を凝縮した異端の高性能ツーリングワゴン【愛すべき日本の珍車と珍技術】

日産 ステージア260RSはGT-Rの技術を凝縮した異端の高性能ツーリングワゴン【愛すべき日本の珍車と珍技術】

 これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、GT-R並みのパフォーマンスを手に入れたワゴンモデル、ステージアの「オーテックバージョン260RS」を取り上げる。

文:フォッケウルフ/写真:日産

【画像ギャラリー】専用チューニングされた「電動SUPER HICAS」が走りを支えるステージア260RSの写真を見る!(3枚)画像ギャラリー

日産史上最速ワゴンと呼ぶにふさわしい能力を持つ

 1996年にステージアに追加されたハイパフォーマンスモデル「オーテックバージョン260RS」は、日産の特装車部門「オーテックジャパン」が手がけた究極のツーリングワゴンである。

 開発の発端は、GT-Rのメカニズムをワゴンボディに移植することで「家族を乗せて走れるGT-R」を作ろうというエンジニアたちの情熱だった。当時、スポーツワゴンといえば欧州勢が主流だったが、260RSは国産のスポーツワゴンを求めるニーズに対する回答として強烈な存在感を放っていた。

 生産は、オーテックジャパン湘南工場での手組み生産方式により行われた。パワーユニットは日産村山工場から供給され、熟練メカニックが1台ずつ丁寧に組み上げていた。

 生産台数はわずか約1734台(1997~2000年)と少ない。それゆえ、現在ではコレクターズアイテムとしても高い人気を誇っている。

ブラックアウト処理を施したグリルと、空力性能を意識した専用フロントバンパーが、見る者にただならぬ雰囲気を放つ。その表情は、GT-Rの血統を感じさせながらも、ツーリングワゴンとしての重厚さと落ち着きを兼ね備えている
ブラックアウト処理を施したグリルと、空力性能を意識した専用フロントバンパーが、見る者にただならぬ雰囲気を放つ。その表情は、GT-Rの血統を感じさせながらも、ツーリングワゴンとしての重厚さと落ち着きを兼ね備えている

 ベースとなったのはステージアの「25t RS FOUR」。そこにGT-R(R33)のRB26DETT 2.6Lツインターボエンジンと、アテーサE-TSフルタイム4WDシステム、さらに電動SUPER HICASを組み合わせ、機構面はほぼGT-Rそのものといっていい。

 いわずもがなRB26DETTエンジンは、最高出力280ps、最大トルク37.5kgmを発生する超高性能ユニットである。スペックだけを見ても量産ワゴンに搭載するユニットとしては異例のパフォーマンスであることはわかる。

 しかも単なる流用ではなく吸排気系やECU制御をワゴン用に再マッピングして搭載した。これにより中低速域のトルク特性を最適化され、扱いやすさと力強さを両立。余裕ある中速トルクとシャープなレスポンスが、あらゆるシーンで爽快な加速フィールを提供する。

 トランスミッションは、R33型GT-Rと同じ5速MTを採用。駆動系は日産独自のアテーサE-TS(電子制御トルクスプリット4WD)で、前後駆動力配分を0対100~50対50の範囲で自動制御する。これにより、ワゴンボディながら圧倒的なトラクション性能と安定感を実現していた。

徹底して強化されたボディがスポーツドライブを支える

 サスペンション形式は前後ともにマルチリンク式だ。ジオメトリーをGT-Rとは異なる設定とし、ワゴン特有の重量配分・重心高を考慮した専用セッティングが施されている。

 ステージアの高剛性ボディを基礎に、260RSではさらに徹底した補強が施されたことも、走りに絶大な効果をもたらしている。フロントまわりでは、サスペンション取付部の剛性を高める専用フロントストラットタワーバーを装備。左右のサイドメンバー前方を結ぶ強化トンネルステーが、ボディのねじれを抑え、直進安定性とコーナリング時の一体感を高めている。

 リアまわりでは、サスペンションメンバーにトリプルクロスバーを追加し、横方向の剛性を強化。さらに、リアピラー部およびストラットタワーまわりの結合剛性を引き上げ、操舵時の応答性と車体の追随性を飛躍的に向上させている。

 単なる補強の積み重ねではなく、走りの情報量を増やすための剛性設計が功を奏し、ステアリング操作に対する反応がより自然で、限界域でも車両の動きが手のひらで感じ取れるような操縦性をもたらした。

 高速道路での穏やかな安定感から、峠道での切れ味あるコーナリングまで、260RSのボディは確実にスポーツドライブを支えてくれるものだった。

専用リアアンダープロテクターや大型ルーフスポイラーを採用し、低重心かつワイドなスタンスがs強調されている
専用リアアンダープロテクターや大型ルーフスポイラーを採用し、低重心かつワイドなスタンスがs強調されている

 そして、オーテックバージョン260RSの操縦性能を語るうえで欠かせないのが、電動SUPER HICASの存在。これは後輪を能動的に制御する電子制御4WSシステムで、ドライバーの操作に対してより忠実な操舵応答性と高い安定性を実現するシステムだ。

 走行状況に応じて、後輪を前輪と同位相(同じ方向)または逆位相(反対方向)に制御する位相反転制御を採用。低速域では取り回し性を高め、狭い街なかでも驚くほど軽快に走ることができる。一方、高速コーナリングでは、後輪がわずかに同位相で追従することで、車体が吸い付くように安定したラインを描く。

 さらに、旋回中に発生する横Gを検知し、後輪の舵角を最適化する横G応動制御が加わることで、人の感覚を超える精緻な旋回性とコントロール性を実現している。

 その動きは機械的というより、まるでドライバーの意識を読み取るかのようで、ステアリングを切り込むたびに、後輪が静かに意志を持ち、クルマ全体がひとつの生命体として路面をなぞっていくようなフィーリングが得られる。

次ページは : GT-Rの魂を宿したスポーツツーリングワゴン

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